妖の街で出会ったのは狐の少年でした

48話 距離感

あれからロクの距離が近い気がする。
ロク本人は気のせいだと主張する。
自意識過剰なのだろうか?

カズハ様と観光した時の気配と求婚してきた相手からした気配は本当に同じだったのだろうか?今考えたらはっきりそうだと答えられない。
末裔の娘を嫁にすれば・・・
そう考えている人はどのくらいいるのだろうか。ふたつの気配の人は地位と名誉のことを知っていたのだろうか。
でも地位と名誉に関わらずに結婚したいという相手が現れたら、俺は笑って見送れるのだろうか。考えてもわからない。とにかく 
カズハ様から離れないようにしよう。
「ロク、どうかしたの?」
「え?」
「なんか、元気ないように見えたから」
「そうですか?大丈夫ですよ」

次の日、
「カズハ様」
いつものように起こしにいくと珍しい寝起きが悪く、顔が赤く目が潤んでいた。
「カズハ様?」
「なぁに~」
返事も舌足らずな感じだ。
「カズハ様、失礼します」
首に手の甲を当てると熱く感じた。
「少し待っていてください」
俺はカズハ様が少し熱っぽいので今日は休ませる旨をミズキ様に伝え、体温計やタオル
数枚その他諸々を医務室から借り、
部屋へ戻った。
「あ、おかえり~」
「カズハ様、舌を上顎につけたまま口開けてください」
体温計を突っ込んでくわえさせる 
しばらくして
「38.6」
妖の体温は人間の1℃ほど高い。俺の体温は37.0℃なので逆算すると高い方なのだろう。
「とりあえず水分は取ってください」
水差しの水をコップに入れ渡す。
水を飲んでいる間に氷枕にタオルを巻き入れ替える。
タオルを濡らして額に置いた。
冷たくて気持ちいいのか、顔を綻ばせた。
寝息が聞こえ、次に起きたのはお昼
近くだった。
「食欲がなくても少しでいいので食べてください。お粥作って持ってきますから」
空いている厨房を借り調理開始。
土鍋にお湯が沸騰したら出汁とご飯を入れて
軽くほぐしてしばらく煮る。よく溶いた卵を
回し入れ軽く混ぜたら完成。
お盆に乗せ部屋へ戻り、横になっていたカズハ様を起こす。
「少しでもいいので食べてください」
お椀によそり渡した。
「ごめん」
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
結局4分の1ほどで、もういいと首を振ったので水分を取らせて寝させた。
一応ナグモ様には事前に報告をしていた。
お粥を片付けて戻るとカズハ様が
咳き込んでいた。
「カズハ様!大丈夫ですか?」
上体を起こし、背中をさすっていると落ち着いたのか止まった。疲れたのか肩で息をしていた。布団の脇に置いてあるコップに手を
伸ばし水を飲むと布団に倒れ込もうとしていたので支えて阻止。
「カズハ様、横になりたいのはわかりますが、もう少しだけ我慢してください」
体温を測ってもらうと少し上がっていた。
「39.0」
カズハ様を横にさせてタオルを濡らしなおしてからのせる。
カズハ様が望んだこととはいえ知らない街
わからない常識の中での授業
学校が終わったら仕事。休息があるものの180度変わった環境、生活でストレスがたまらないわけがない。
気づけなかった俺は使い失格なのだろうか。

夕方ごろには38.2と落ち着き意識もはっきりしていた。夕食は煮込みうどんにした。お昼の時より食欲はあるらしくゆっくりだがほとんど食べてくれた。
「ごめんなさい、ロク。
私の看病で1日潰れちゃったでしょ?」
「気にしないでください。看病も仕事のうちですから」
「そっか」

目が覚めると一夜が明けていた。
寝る頃にはほとんど溶けて常温になっていた氷枕が、柔らかくなっているものの冷たいものになっていた。額のタオルが湿っていた。
ロクは壁に寄りかかって寝ていたが
いつもの羽織をはおっていなかった。
寒いのかたまにくしゃみしていた
(もしかしてずっと起きて看病してくれてたの?)
「あ・・」布団の一番上にかけてある羽織
(この羽織は特殊で・・・)
手に取りそっとロクにかけ、呟いた
「ありがとう、ロク」
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