妖の街で出会ったのは狐の少年でした

52話 初夏

やっと梅雨が終わったと思ったら今度は暑い日が続くようになった。まぁ、仕方ないが。
「あづい」
「余計、暑くなりますよ。やめてください」
「ロクは羽織、暑くねぇの?」
どこにいても聞こえる喧しい蝉の声にうんざり
しながら壁にもたれかかりロクの隣で
「脱いだ方が暑くなるので。」
脱力感の含む声でこたえた
「あー、前なんか言ってたな。それ、めちゃくちゃ高ぇ代物なんだろ?」
「ええ。宿屋の前経営者セツナ様という方が
オレ宛にお送り頂いた物です。代金はいいと同封の手紙に記してあったのですが、ナグモ様に無理を言って給料の三分の一を羽織代としてセツナ様にお渡しさせて頂いているんです。」
律儀だなぁ。
今日は、朝からみんなぐったりしている。
スイウは学校に来たものの軽い熱中症を
発症しすぐに早退していった。
「エアコン?っていうやつ導入してくれねぇかな」
「こんなに暑い初夏は久しぶりですからね。
校長先生がエアコンに関するチラシを吟味していたので考えてはくれていると思いますが。」
年々少しずつだが初夏から暑さが増している
気がする。
休み時間終了の鐘が鳴る。
机につきちらりとカズハを見ると頬杖をしてぼーっとしていた。汗で首に髪が張り付いついた。
(邪魔そう)
ヨナガ先生が入ってきた。いつもはきっちり締めているネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを一つ開けていた。
「川に行きましょう」
先生の発言に教室はしんとなった。
暑くて頭おかしくなったんかな。
校長先生ならわかるけど。
「いきなりどうしたんですか?」
カズハがおずおずと聞いて
「こうも暑いとあなたたちの勉強に支障が出ると思いまして。決して自分のためではありませんよ。
暑いから試験問題作りに手詰まっているからではありません。」
先生も重症だな。
でも初夏でこの暑さ、夏本番になったら・・・
考えるのはやめとこ。
オレたちは沢に来た。
水の流れる音だけで癒される。
「今からしばらく自由行動にします。
なにをしてもいいですが、目の届く範囲にいてください。千里眼使うのも体力使いますから」 
先生の説明が終わるとチビたちはすぐに沢に飛び込んだ。
「カズハねーちゃんもあそぼー」
軽く返事をしたカズハはスカートを二、三度折り
ブラウスを肘上までめくり安全ピンで止めていた。
髪も結い直して走っていった。
(やる気満々じゃねぇか)
ナツキもここにいたら楽しかっただろうな。
今、なにしてるんだろ。
「ジュンにーちゃん」
「ん?どう・・・冷たっ!」
小さなバケツいっぱいの水を思い切り浴びたオレは
頭からずぶ濡れになった。
「いきなり、なにすんだよ!だったら」
一回濡れちゃえば後は気にする必要はない。
校長先生は肩掛けバックに水鉄砲にビーチボールに虫除けスプレーなど用意周到だった。あのバケツも校長先生から借りたんだろうな。
オレは水鉄砲を借り反撃に出る。

「あれはきつい」
最初は好きに水のかけ合いをしていたが示し合わせていたように私の集中攻撃になっていた。
(髪縛り直してよかった。絶対顔に張り付いてた)
ロクがいないことに気づき私はゲームを抜けた。
スカートを絞ると結構水が出できた。
「スカート重っ」
近くに山道へ続く階段があり登っていくと、
少し遠くにロクが立っていた。斜面は少し急なので
慎重に歩いていく。
「カズハ様」
足音できづいたのか
「なにしてるの?ロク。そっからなにが・・」
視線の先にはみんなが遊んでいる姿があった。
「行かないの?」
「オレは遊ぶより見る方が好きなので」
「そっか」
ロクは私の方を見るとため息をつき、顔を背けながら自身の羽織を私にかける。
「羽織っててください。また風邪引かれたら
困ります」
「あ、ありがとう」
私は若干ロクの態度が気になりつつも羽織に
袖を通した。
みんな集合してるようだったので気をつけて山を
降りる。校長先生がにんまりしていたが気にしないようにした。
学校に戻り、解散となった。
またたまにでいいからこんなことしたいな。
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