妖の街で出会ったのは狐の少年でした

55話 特別な日

「カズハおねーちゃんの誕生日っていつなの?」
唐突にされた質問。
正直に言っても追求されそうだしどうしよう。
悩んでいると
「カズハ、ちょっといいか」
廊下から呼ばれる
「あ、今行く。ごめんね。この話はまた今度に」
軽くあしらい教室を出る。
ありがとうジュン、救世主だ
「どうしたの?ジュン」
「あー、特に用はないんだ。わりぃ」
「いや、むしろ助かったよ、ありがとう」
「あのさ、ジュンって自分の誕生日がいつか
わかってる?」
「え、まぁ」
「そっか、ちょっと相談があって」
「なんだ?」
「実は・・・」
「誕生日がわからない、かぁ」
「うん」
「生まれた日が分からないって寂しいと思うんだ
でも、前向きに捉えてみれば特別な日を自分で決められるってことだろ?」
「特別な日か
ありがとう、ジュン」
「おう」

「そういえば、カズハ様」
授業が終わり下校中にふと思い出したように聞いてきた。
「なに?ロク」
「初めてのお給料で買った着物ありましたよね、あれってどうしてるんですか?」
「あ~、あれね」
桜柄の着物やはり制服の方が動きやすく、日中は
制服か仕事の着物のどちらかであの着物の着る機会がない。いや、あったと制服の方が動きやすいので着物を着るのを渋ってしまう。そうしてあの着物は箪笥の中に綺麗な状態でしまってある。
「なんか制服の方が落ち着いちゃって」
と、言葉を濁していると
「あの、以前から気になっていたんですが、カズハ様って袴は着ないんですか?」
「袴か」
(そういえばミズキさんも着てたな)
「着物より袴の方が動きやすいんですよ」
「そうなんだ。ならお願いしてもいい?」
「はい、喜んで」

着物一式をロクに預けた。
仕事終わりの夕食を持ってきてくれた時、ロクが
聞いてきた。私は読んでいた本を閉じロクの方に顔を向ける
「カズハ様にとって特別な日っていつですか?」
「特別な日、か。やっぱりこの街にきた日かな。
この街にきてから、沢山の経験をすることができた。何もない日も前とは違って少しだけ楽しく思えた。それが意図的だったとしても来ることを決めたのは私自身。自分を変えることができたあの日は
私の中で一番特別な日だよ。」
これだけははっきりとわかる
「そうなんですね。」
「ロクは?」
「俺はこの世界に来た時、初めて見たのは裏側の世界でした。人身売買や闇取引などが日常茶飯事で、誰にも買われることなく死んでいくのだろうかと思わない日はありませんでした。
でもナグモ様に拾われた。雇われた。あなたの使いとしてそばにいることができている。あの日が俺にとって特別な日。ナグモ様と出会った日が俺の
誕生日なんです。」
「あの、その誕生日っていつなの?」
「5月6日です。」
「とっくに過ぎてるじゃん!なんで言ってくれなかったの!?」
「え、だってこの歳になってこの日誕生日なんだって恥ずかしいじゃないですか」
「え、ショック。使いの誕生日知らなくて知ったらとっくに過ぎてたとか」
うなだれる私とは対照的に満面の笑みで
「なら、来年の誕生日祝ってくれますか?」
「もちろん!約束」
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