恋桜~あやかしの闇に囚われて~
 和真がこれまで見たことがないほど大きな桜の木だ。古墳のように盛りあがった小丘を隠すように、桜吹雪が舞っている。丘の周りには朽ちた木々が折れ重なって倒れていて、その幹は深い色合いの苔に覆われており、村人がこの地を去ってからの長い時間を感じさせた。

 丘の下に車を停め、ふたりで大樹のもとまで歩いて登る。大した距離ではない。ただ斜面のあちこちに、欠けた墓石のようなものが転がっていて歩きづらかった。

「満開だー!」

「おい、足もとが悪いから転ぶなよ」

 ミツルが桜の木の下に走っていく。和真も早足でミツルに続いた。
 満開の桜を見て気分が高揚するのは、日本人特有の感覚なのだろうか。そして、散りゆく花を見て、どこかもの悲しさを感じるのも。



 はらり、はらりと。



 桜の花弁が、時を急ぐように舞い散っていた。
 その様は廃村の静けさも相まって恐ろしいほど美しく、見る人がひとりもいないことが不思議に思えた。これが都会だったら……せめて人里にあれば、たくさんの花見客で賑わっていたことだろう。そうしたら、こんな寂しさは感じなかったのかもしれない。

「和真、なんだろう、これ」

「何?」
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