あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる

午前中から行われた役員会議。

今年度の予算や今後の方向性を決める大切な会議だ。
全国の支店から課長以上が集まる大きな会議だ。
100名以上の役員が集まっている。

会社内の一番大きな会議室。
社長秘書や役員秘書も集まり、入り口付近に席が設けられている。

数時間にも及ぶ長い会議が終わり、皆が立ち上がろうとした時、悠斗さんの声が響いたのだ。


「皆さんに、報告しておきたいことがあるので、少しお時間をいただきたい。」


皆が一斉に何事かと驚いた表情をしている。

すると悠斗さんが私の方を見て、手招きをしているではないか。

なぜ急に呼ばれたか分からず、私は急ぎ立ち上がり、悠斗さんの方へと走り寄った。


「私事で恐縮ですが、私は既に結婚しているので、その報告をしておきたい。」


会場中が、驚きで声が出ないようだ。静まり返る会場内。
私は突然のことに、心臓が飛び出すのではないかと思うほどドクンドクンと音を鳴らしている。


「ここにいる、伊織桜君は、すでに神宮寺桜なんだ。」


皆が一斉に私を見た。私は身体が固まり動けない。

…なんで、こんな時に発表するのよ!

すると、会場の中でパチパチパチと誰かが拍手をしたのを合図のように、会場中から拍手が聞こえて来たのだった。


「おめでとうございます。」
「お幸せに!」
「社長夫人、これからも会社をお願いしますよ!」


あちらこちらから、盛大な拍手と歓喜の声が聞こえて来たのだ。
私は緊張が解けると同時に、今度は感動の涙が溢れ始めた。

すると、悠斗さんが私の肩をポンポンと叩いてくれた。


「桜、…これからよろしくお願いしますよ、社長夫人殿。」

「悠斗さん、ふざけないで下さい。」


いつまでも拍手は続き、皆が笑顔で祝福してくれた。

さらに大変だったのはこの後だった。
この会議室での結婚報告は、あっという間に会社中に広がったのだ。

しかし、皆に何を言われるか不安だった私に、思わぬ事態が起こったのだ。

白鳥さんを中心に女子社員が大勢で近寄って来た。
大変な事になると目をぎゅっと閉じた次の瞬間だった。

目の前に何か気配を感じて目を開けると、大きな花束が目の前に差し出されていたのだ。


「こ…この…花束は?」


すると、一歩近づいた白鳥さんが微笑んだのだ。


「神宮寺社長を取られるのは悲しいけど、貴女なら納得するわ…秘書としても完璧だし、それに神宮寺社長を心から大切にしているのは、分かっていたわ。だから…おめでとう…幸せにならなくちゃ私達が許さないからね!」


皆が笑顔を向けてくれている。
こんなに嬉しいサプライズは生まれて初めてだ。

そして、その横から現れたのは秘書の須藤だ。


「じれったい二人がやっと公表して、本当の夫婦になったな…おめでとう。」


須藤は箱に入ったものを、目の前で開けて手渡してくれた。
それは、箱に入ったお洒落なブリザーブドフラワーがアレンジされたものだった。
センスのいい須藤らしいプレゼントに、思わず笑顔になる。

皆がこんなにも祝福してくれるとは、本当に私は幸せ者だ。
心の底から幸せが満ち足りて溢れているようだった。

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