貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
伝わる想い
 譲のマンションに着くまで、真梨子は黙って下を向いていた。さっきの会話を譲がどう思っているのか、不安で仕方なかった。

 荷物を運び終え、譲にどう話せばいいのか考えながら作業をしていたら、時間だけが過ぎていた。

 作業が一段落してソファに身を沈めた真梨子の元へ、譲がホットコーヒーの入ったマグカップを二つ持ってくると隣に腰を下ろした。

「……ありがとう」
「どういたしまして」

 マグカップを受け取り一口飲む。それから譲の肩にそっと寄りかかる。その肩に譲が腕を回す。

 譲の腕の中はすごく安心出来る。でも彼がそれ以上何も話さないのは、きっと譲は私から話すのを待っているから。

「……譲ってずっとこの香水なのね」
「気に入ってるからね」

 真梨子は譲の香りを吸い込む。

「私ね、あなたのこの香りがすごく好き……ホッとするし、なんだか胸がドキドキするの……」
「あはは。ホッとするのにドキドキしていいの?」
「……あなたの香りに包まれてると、この上ない満足感に浸れるの……」

 真梨子はマグカップをテーブルに置くと、運んだ荷物の中から靴箱を一つ取り出す。それを持って再びソファに座ると、譲の前に差し出した。

「これは?」

 譲が不思議そうに箱を見つめる中、真梨子はそっと蓋を開けた。

 箱の中には赤いハイヒールと、その隣に使いかけの香水瓶が入っていた。

「これって……」

 真梨子は香水瓶を取り出すと、靴の箱を床に置いた。よく見ると、香水の中身は残り少なくなっている。

「夫から辛く当たられた時とかね……無性に譲が恋しくなる夜があったの。その時にたまたまこの香水を見つけて……。この香水をつけると、不思議とあなたの腕の中にいるような気持ちになれた……。私にとっての安定剤みたいな感じかしらね」

 まさか晃が気付いていたとは思わなかったけど。

 譲は真梨子の頬に手を添えると、彼女の唇にそっと口づける。そして嬉しそうに目を細めて微笑んだ。

「なるほど……そういうことだったのか。さっき元旦那さんに香水のことを言われて、匠以外に誰かいたのかと思ったんだ。でもこの間は六年振りのセックスって言ってたし、真梨子のことだから嘘はつかないと思ったんだけど……うん、納得した」

 譲は真梨子を抱き上げると、自分の足の上に座らせる。

「ほら、足開いて」

 耳元で囁かれ、真梨子は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めると、言われた通り足を開いて譲の上に跨る。譲は真梨子の腰に腕を回すと、強く引き寄せた。

「よく出来ました。じゃあそろそろ洗いざらい喋ってもらおうかな」
「洗いざらい?」
「そう。あの日から今日までのこと全てね」

 譲の手が太ももを撫で、真梨子のお尻の上を彷徨う。彼の手がゆっくりと前の方へ移動し、デニムのボタンを外すと、そのままショーツの中に手が滑り込んだ。
< 118 / 144 >

この作品をシェア

pagetop