貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
貴方の移り香
 離婚してから半年。ようやく二人は区役所に婚姻届を提出することが出来た。職員の人から祝福されると、二度目だしどこかくすぐったい気持ちになる。

 車に戻り、シートベルトを締めていると、譲が嬉しそうな表情で真梨子を見つめていた。

「これからよろしくね、《《副島真梨子さん》》」

 改めて言われると恥ずかしい。でも譲と結婚したんだと思うと、この上ない喜びに心は満たされた。

 両家への挨拶を終えた後、真梨子は職場である学校へ、離婚と再婚の予定を報告した。校長は驚いていたものの、温かく祝福してくれた。

 来年度も仕事を続ける予定だったが、真梨子は引っかかっていることがあり、担任からは外して欲しいと伝えた。それはたとえ僅かでも、未来に希望を持ちたかったからだが、校長はにこやかに了承してくれた。

 譲は真梨子の頬に手を添えると、唇を親指でなぞる。そして唇を塞がれたかと思えば、二人の舌が熱く絡み合っていく。

「早く家に帰って俺の奥さんを抱きたいなぁ」
「もう、突然何を言い出すの」
「だってようやく真梨子と夫婦になれたんだ。もう我慢しなくていいなんて夢みたいじゃないか」
「それはもちろん私だって……」

 言いかけた真梨子の下腹部を、譲は人差し指で(つつ)きながらニヤリと笑う。

「今夜は直接真梨子の中に入るから」

 その言葉に真梨子はドキッとし、体が疼くのを感じた。

「真梨子にそっくりな女の子がすぐに出来たらどうする?」

 どうしてこの人は、わたしの気持ちを煽るようなことを平気で言うのかしら……。

 真梨子は譲の首に腕を回してキスをする。

「私は譲そっくりな男の子でもいいんだけど……」

 譲はゴクリと唾を飲み込むと、真梨子の唇を吸い上げるようなキスをしてから、急いでエンジンをかけた。
 
* * * *

 マンションに帰宅するとすぐに、玄関先で譲に壁に押し付けられ、待ちきれないとばかりに唇を塞がれる。だがそれは真梨子も同じだった。

 二人はお互いの服に手をかけていくが、全て脱ぎきらないうちに譲は真梨子の体を抱き上げベッドに急ぐ。

 シャワーを浴びる時間すら惜しかった。譲は真梨子の体をベッドに横たえると、残りの衣服を全て取り去ってしまった。

 愛おしそうに真梨子を見つめると、譲は彼女の体の隅々にまでキスをしていく。彼の長い指は真梨子の敏感な部分ばかりを刺激し、悦びを与えられるたびに震えが止まらくなった。

 再び熱いキスをされ、真梨子の瞳が潤う。そんな彼女を譲は優しく見つめて微笑む。

「愛してるよ……真梨子……」
「うん……」

 そして真梨子の中に、譲自身がゆっくりと入ってくる。その瞬間、譲は大きく唸り、呼吸が少しずつ荒くなっていくのがわかった。

「もうこれからは……何も付けずに君の中に入るよ……だから真梨子、俺の全てを受け止めて」

 真梨子はただ頷いた。譲は真梨子にキスをすると、激しく腰を動かし始める。

 何の隔たりもなく愛し合える感覚。もうずっと忘れていた。繋がりあった部分から、譲の愛が流れ込む。

 やがて譲が果て、真梨子の上に覆いかぶさる。胸を上下させ、荒い呼吸が耳元に吹きかかった。

 真梨子の中から出ようとした譲の体に足を巻き付けると、真梨子は彼の耳元にこう囁く。

「気持ちいいから……まだ私の中にいて……」

 だがそれが引き金となり、譲は真梨子の胸の頂を舌で舐りながら、ゆっくりと腰を動かし始める。

「……可愛いこと言うなよ……抑えが効かなくなる……」
「うふふ……いいの、何度でも譲に抱かれたいから……」
「……そんなこと言うと、いつまでも終われないぞ……いくらでも真梨子の中に出し続けるからな」
「臨むところよ。今日は私もギブアップなんかしないから」

 晃との子どもを望んでいた頃は、義務的なセックスだった。でも今は違う。この行為に愛が溢れているの。愛されてると実感するし、私もこの人が愛しくてたまらない。

「愛してるよ……真梨子……一生君を愛すると誓うよ」

 いつまでもこの気持ちが変わりませんように……。今度こそ本物の愛になりますように……。真梨子は心の中でそう願った。
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