貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
崩れる
 譲との関係を絶ってからすぐ、友人に一人の男性を紹介された。四才年上の(あきら)は、外科勤務の医師として(せわ)しなく働いていた。

 譲とは違って堅実で、真梨子と同じような真面目なタイプの晃は、一緒にいると穏やかな気持ちになれた。

 デートのたびに助手席にプレゼントが置いてあったり、料理の腕を振舞ってくれる。譲に抱いたようなドキドキ感はなかったが、それでも安心感は得られた。

 四回目のデートの時に晃に告白をされ、真梨子は彼との交際を始める。

 その一方で、仕事も大変ながらやりがいを得られていた。真梨子が就職したのは中高一貫の私立高校で、生徒たちと一緒に笑ったり泣いたり悩んだりすり日々は、充実感をもたらしてくれている。

 新任教師ということもあり、中には告白してくれる男子生徒もいた。しかし晃と付き合っていたし、教師と生徒の線引きはきちんとするのが真梨子の主義だった。

 だが一人だけ、真梨子の心に懐かしい感情を芽生えさせた生徒がいた。彼を見ていると、時々譲の姿が被って見える。

 笑い方かしら……あと目を伏せた時の顔立ち。話し方もどことなく譲に似ている。

 そのたびに、彼は今どうしているかしら……本命の彼女を見つけたかしら。それとも新しいセフレでも見つけた? そんなことが頭に浮かぶ。

 譲との日々が美化され続けていることに気付いていた。これが一番好きな人と結ばれない由縁なのかもしれないわね。だってあの日々がいつまでもキラキラしていて、輝きを失わないの。
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