龍神さまのいるところ

第7話

「ねぇ、……そんなところ、怖いからヤだ」

「そんなこと言ったって、もう残ってる可能性は、ここしかないでしょ」

「暗くなるよ。明日にしよう」

 俺は彼女を振り返った。

「だ、だって、この森、ヘンな噂が一杯あるでしょ? 変な人がうろついてるとか、暴行事件があったとか……」

 まぁ確かに、そんな噂がないワケではない。

それは知っているけど、本当にあったかどうかだなんて、誰も確かめたことはなかっただろ。

「だけどハクは、帰らなきゃならないんだろ? 天に」

 彼女は首を横に振った。

「え……、だって……。自分がどんだけヤバいことしてるのか、本当に分かってる?」

「私、言ったよね、そんなことしたくないって!」

「時間がないって言ってただろ。見つかる前に帰らなきゃって」

「だから、それは一瞬の出来事だって……」

「あのヒトは、迷惑だって言ってんだよ」

 日が沈む。

辺りがすっかり暗くなってしまう前に森に入らないと、本当に何にも見えなくなってしまう。

「なにがあったのかは知らないけど、お前は黙ってここへ来たんだろ? あのヒトは、お前までこれ以上巻き込みたくないからって、お前を頼むって、俺に言ってきたんだ」

「……。本当に会ったんだ……」

「会ったよ。あの日、教室で……」

 坂道をゆっくりと下ってゆく。

コンクリートの斜面が、肩のあたりまで下がった。

ここからなら上れる。

俺はそこに手をかけた。

「待って!」

「私、行きたくない! ハクと離れたくないって言ったよね!」

「え?」

 俺は彼女を振り返った。

「ハクが天に帰っちゃったら、私との約束はどうなるの?」

「……。もしかして、まいか……ちゃん?」

「そうだよ。本気でハクだと思ってた?」

「だって、ハクが……」

「うん、そうだよ。乗り移ってたよ。私はハクで、ハクは私だったよ。だけどね、そんなのは一時のことだけ。常に入れ替わってたし、ハクはハクで忙しくしてたの。だから圭吾が見てたのは、ハクばっかりじゃないし、私だけでもないの!」

 そんなこと言われたって、俺に分かるワケが……。

「自分の……わがままだって、分かってる。ハクにとって、何が一番大切なのか。ハクのことを本当に一番に考えるなら、どうしたらいいのかなんて、言われなくても分かってる。ここにはずっと、一緒にいられないことも……」

 舞香の肩までの髪が、小刻みに揺れている。

「い、いじわる……しちゃった。ハクのこと、手伝いたくなかった。話しもちゃんと聞かなかったし、わがままばっかり言って……」

「……。俺も、似たようなもんだから……」

 そうだよ。

俺だって、何もかも面倒くさいと思ってたよ。

避けてたし逃げてたよ。

本当はどうすればいいのかなんて、ずっと前から分かっていたのに……。
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