龍神さまのいるところ

第2話

 このヒトの姿にそれを重ねてみても、もう終わったことと、興味をなくしてしまったのだろう。

再び記憶を封印し、また消し去ってしまったのか……。

 希先輩は荒木さんに、あれこれと話しかけているけれども、全く相手にはされていなかった。

身振り手振りで一生懸命笑ったり怒ったり……。

ふと希先輩と目が合う。

「なによ」

「いえ、何でもないっす」

 結局付き合い始めたのかな? 

そうでもないのかな。

よく分からないけど、まぁいっか。

希先輩が楽しいのなら、それでいいや。

もう関係ないし。

俺は立ち上がった。

「じゃ、また」

「おう。舞香によろしく」

 そう言った荒木さんを見下ろす。

隣の希先輩からの視線が痛い。

この人は本当にもうちょっと、自分自身のことをなんとか考えた方がいいと思う。

回りのことは十分見えているのに、自分のことだけは完全に見えていない。

 体育館を離れ、校舎の陰を横切った。

いつだって人気のない静かなベンチに、肩までの髪を揺らして彼女は座っている。

放課後の時間をここで待ち合わせするのが、なんとなく習慣になっていた。

「お待たせ。早かったね」

「別に待ってないし」

 舞香は紙パックのマンゴージュースを、ストローでズズッと吸い上げる。

「それで?」

「それでって?」

「宝玉もらって、別に気分が悪くなったとか、体調悪いってこともないんでしょう?」

「まぁね」

「胸に違和感もない」

「ない」

 彼女はため息をついた。

「人に扱えるものじゃないって言ってたから、本当に人間には、どうしようもないのかもね」

 そのことは分かった。

だけど、どうして荒木さんは、俺に預けようと思ったんだろう。

つーか、あのヒトは将来、どうやって回収するつもりなんだ? コレ……。

「持たされ損?」

「預かり損的な?」

「なんだそれ。レントゲンとかどうすんだ。CT撮るとか、飛行機の検査場とかさぁ」

 自分の胸に手を当てる。

納得いかない。

だったらなんで、こんなことしたんだ。

そこをなで回している俺に、舞香はため息をついた。

「きっとそういうトコ」

「なにがだよ」

「何でもない!」

 彼女はベンチに座ったまま、両腕を思いっきりう~んと伸ばした。

「きっとまた、会いたいってことだよ」

「え? 誰に?」

「で、いつ見に行くの?」

「なにを?」

 彼女の視線が、じっと非難たっぷりにこっちを見てくる。

「えぇっと……」

 うつむいたその視界の端に、山本とみゆきの姿が見えた。

並んで歩く二人の背が近づいたかと思うと、キュッと手をつなぐ。
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