龍神さまのいるところ
第7章

第1話

 梅雨の季節がやってきて、雨の日が続く。

それが何よりも辛いのは、外での撮影が難しいこと。

雨に濡れた緑の若葉は美しいと思うけれど、カメラに収めるとなると一人では難しい。

傘を肩と首の間に挟んで、ピントを絞る。

跳ねた水滴がレンズに飛び散って、撮った画像も歪んでしまった。

「圭吾はなんで体育館に来ないの?」

 希先輩の声だ。

なんだか話しをするのも、久しぶりのような気がする。

俺は傘を片手にカメラを抱えていて、彼女は渡り廊下の屋根の下を身軽に通り抜ける。

「狭いし蒸し暑いから」

「はは、らしい答えだね」

 目の前を3人の女生徒が通り過ぎた。

カラフルで可愛い傘が並ぶその後ろ姿を、彼女はすぐに画像に収める。

「うちも学校外に公認URL取得して、作品アップしようかと思ってるんだけど。どうかな」

「いいんじゃないですかね」

「その作業、お願い出来る?」

「……。部長からのお願いなら……、基本断れないっすよね」

 希先輩からのお願いなら、なんだってするさ。

「ま、いま思いついただけの話しだから、本当にそうするのかどうかは、分かんないけど」

 彼女は笑った。

その笑顔にカメラを向けられるのなら、どんなによかっただろうと思う。

だけどもちろん、そんなことは出来なくて、俺はただため息をつく。

「冗談で言わないでくださいよ。本気にしたらどうするんですか」

「別にいいけど?」

 降り続く雨は止む気配もなくて、希先輩はトタン屋根の下でにこりと笑った。

「私、体育館行こーっと」

 ひるがえる制服のスカートの裾に目をそらす。

今さら演劇部のいる体育館になんて、行けるわけない。

別に特別な理由なんてなにもなくて、ただ俺の撮影対象がそこにないってだけだ。
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