龍神さまのいるところ

第2話

 仕方なく立ち上がる。

あんまり気が進まないけど、雨に打たれる池の水紋でも撮りに行こうかな。

ぬかるみの中に一歩を踏み出す。

ふと荒木さんの姿を見つけて、立ち止まった。

 彼は渡り廊下の端から、じっとその脇にある植え込みを見下ろしていた。

ふいに背を丸めると、その角にしゃがみ込む。

植え込みの中に手を突っ込むと、何かを捕まえた。

チビ龍だ。

首根っこを掴まれ、バタバタとのたうち回っている。

「ちょ……」

 声をかけようかと思って、思いとどまる。

彼はぴちぴちくねくね暴れるそれを、ただじっと眺めている。

チビ龍と目を合わせた。

何かを話しかけるかと思った次の瞬間、彼はポイとソレを投げ捨てる。

半透明のチビ龍は、慌てふためいて姿を消した。

荒木さんはその様子黙って見届けた後で、何事もなかったかのように体育館へと向かう。

その姿は完全に見えなくなった。

「おい、チビ!」

 何もない空間に向かって、俺はこっそりささやく。

「聞こえてるだろ、出てこいよ!」

 ここは校舎と体育館をつなぐ空白地帯だ。

雨も降り人気もないのに、アイツなにやってんだ。

「見つかってんじゃねーよ、バカか」

「バカとはなんだ、こっちは死ぬほど驚いたんだぞ!」

 半透明のチビ龍が姿を現した。

俺は周囲から見つからないよう、その上に傘をかぶせる。

「なんで見つかってんだよ」

「寝ていた。うっかりした」

「そんなんじゃ、あっという間に全校生徒にバレるだろ!」

「大丈夫だ。元々バレている」

「誰に!」

「龍の存在など、みな知っているではないか」

「あぁ……」

 なんだか本当にそうなるのも、時間の問題のような気がしてきた。

「違う。違うんだよ、チビ。そういうことじゃないんだ」

「何がだ」

 どう説明していいのか分からないから、とりあえずスルーしよう。

「舞香は?」

「部活」

「あぁ、そう……。あぁ……。ならまぁ、いっか」

 彼女も必死で探しているワケではないのか。

そうか、そうだった。

大体1,200年も前になくしたものを探そうって奴だ。

人間時間の今日明日で、何とかしろってことでもないんだろう。

本当に全てがバカバカしくなってきた。

「一緒にいなくていいの?」

「居たいと思えばいるし、必要があれば、行けたら行く」

「そんなもんなんだ」

「お前は違うのか?」

 そんなことを聞かれても、何と比較してのことだか分からない。

そういう場合もあれば、そうじゃないこともあるんじゃないのかな。
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