龍神さまのいるところ

第4話

「ダメじゃん、もっと引っぱらないと」

 山本の乾いた笑いに、もはや腹すらも立たない。

「で、好きなの?」

「お前も遠慮ないよな」

「別に? 聞きたいこと、聞いてるだけだけど。お前も言いたいことがあるんなら、ちゃんと言っといた方がいいぞ」

 なんだそれ。

俺は山本の顔をじっと見つめる。

言いたいことなんて、そんなものあるわけない。

言いたいからって言っていいだなんて、そんな単純なわけがない。

背後でふわりと空気が動いた。

なんだか違う空間から漂ってきたような気配がする。

荒木さんの大きな体が、隣に腰を下ろした。

「俺も混ぜてもらっていいかな。圭吾。舞香と何があった」

「何もないっすよ!」

 ムカつくほど整った顔を、俺はジッとにらむ。

「舞香が明らかにお前を避けている。妙なマネをしたら、俺が許さないと言っただろう」

「言いました? そんなこと」

 山本が隣でため息をついた。

「だから犯罪は犯すなってあれほど……」

「何もしてません!」

 体育館の二階席は天上が近くて、むき出しの鉄骨がそのまんま見えている。

明かりの届きにくいこの場所は、いつだって薄暗かった。

荒木さんと山本は、また同時にため息をつく。

コイツらは言いたいことを言いすぎだ。

俺にはそんなことは出来ない。

出て行こうとして立ち上がったら、すぐに荒木さんの手が肩を押さえつけた。

「まぁ座れ。なんだか知らんが、舞香はいま落ち込んでいる」

「は?」

「行って慰めてやれ」

「なんで落ち込んでるんですか?」

「知らん。ただいつもより元気がない」

「荒木さんが元気づけたらいいじゃないですか。部長なんだし」

「なぜ俺がそんなことを?」

「なんでって……」

 彼女の横には必ず荒木さんがいて、舞香は俺には興味なくて、俺なんかが行くよりもずっと、こういう立場とか人望のある人に聞いてもらう方が、嬉しいし楽しいだろうし、たとえ間違ったとしても上手くいく……。

「悪いが俺は、お前のような興味は舞香にない。あぁ、恋愛対象としてってことな」

 どこまで真剣に話しているのか、よく分からないような顔を向ける。

だったら誰が恋愛対象なのかと、俺はその言葉を飲み込む。

「えーじゃあ誰か他に、気になる人いるんですか? 実際モテるでしょ。あ、彼女いるとか?」

「ばっ、お前、そういうことを平気で聞くなよ!」

山本は荒木さんに対しても遠慮がない。
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