龍神さまのいるところ

第3話

「どうだろうね」

 チビ龍は宙に浮いたまま、じっとこっちを見つめている。

聞きたいことは山ほどあるけど、何をどう聞いていいのかも分からない。

そもそも、そんな込み入ったことを、簡単に聞いてもいいことなんだろうか。

同じ傘の中にいるその距離がぐっと近づいて、俺は無意識に後ずさる。

「雨には濡れても平気なの?」

「特に問題はない」

「普段は何を食べてる?」

「『食事』というものは不要だ」

「家族とか兄弟は? 友達とかいないの?」

「……。人の子はやはり不思議だな」

 半透明の実在するはずのない、空想の生き物だったそれは言った。

「聞きたいことがあるなら、ちゃんと聞け」

 透明な体はさらに透け、チビは言いたいことだけ言い残し、やがて見えなくなってしまった。

もうどこにもチビ龍の気配を感じられない。

俺に用はなくなったいということか? 

雨の降る音に混じって、運動部のシューズが床を擦る音が、ここまで聞こえてくる。

それが俺の耳に鳴り響いている。

自然と足はそちらに向かった。

 開け放された扉から中をのぞき込むと、バスケ部と卓球部の向こうに、壇上を行き来する演劇部の姿が見えた。

「圭吾、来たのか」

 頭上から声が聞こえた。

見上げると、二階席に山本がいる。

俺は入り口に戻って階段を昇ると、何となく山本の隣に腰を下ろした。

ステージに近い部分の二階席には、演劇部員たちがいて、なんだか色々やっている。

「でさ、舞香ちゃんとは結局、どうなったの?」

 いつの間にか山本にまで心配されている。

「いや。元々何でもないから」

「もう写真部に、編集も習いに来ないの?」

「さぁ」

 空席の並ぶその向こうに、スマホを抱えた舞香と希先輩がいた。

舞香から何かを話しかけ、希先輩がそれに応える。

彼女の小さなスマホ画面を、頭をくっつけ合うようにして眺めていた。
< 39 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop