龍神さまのいるところ

第3話

透けるような彼女の頬が、わずかに赤らんだような気がした。

「なに?」

「……。荒木さんのこと、好きなの?」

「どうして?」

 ひさしぶりに間近に並んだ顔が、ちょっぴり傾く。

「圭吾は……、希先輩?」

「希先輩は、荒木さんが好きだから」

「なんか、あっさり認めるんだね」

「だって、舞香に隠してても、しょうがないもん。見てたら分かるでしょ」

「圭吾は、希先輩のどこがよかったの?」

「じゃあ逆に聞くけど、荒木さんのどこがいいの」

「あはは。やめてよ、そんなこと」

 彼女の後でスカートがはねる。

その背中は一段一段と階段を下りてゆく。

「ね。二人で撮影しながら、なに話してたの」

「別に。何も話してないよ」

「何もないことはないでしょ」

「たとえば?」

「たとえばって……。『こっち向いてー』とか」

「そんなこと、言わないし」

 もしそうやって彼女に呼びかけたら、あの教室でどんなふうに振り返ったんだろう。

そんなことを考えていたら、ふいに彼女は振り返った。

「ね、私が写真撮ってあげようか」

「は? なんで?」

「いいじゃない。ちょっとやってみたい。ほら、こっち向いてー」

 指で作る四角いフレームに、彼女の楽しそうな笑みが囲まれる。

「いや、そんなんじゃ撮れないでしょ」

「あ、じゃあ本気でスマホで撮る?」

 いつだって、そのためのカメラは用意してあるのに……。

俺はずっしりと重たい、首にかかるカメラを持ち上げた。

彼女に向かって、レンズを掲げる。

シャッターを切った。

「ちょ、やだ! ちゃんと撮る時は言ってよ」

「だから、そんなこと言わないって言ったし」

「もう! いいよーだ。私も撮るからね」

 スマホを構えたその姿に、もう一度シャッターを切る。

「ほら、こっち向いて!」

「向いてるし」

「だから、。私のはもういいよぉ」

 踊り場で振り返る。

ちょっと怒ったような上目遣いが、画像に納まる。

「……。これ、荒木さんに送ろうかな」

「やめて」

「冗談だって」

 はは。『はは』だって、どうした俺。

彼女の手が俺の腕に触れる。

カメラの表示画面を向けると、そこに頭を寄せてきた。

彼女の前髪が、鼻先をくすぐる。

「撮られてみた感想は?」

「感想って、別に……」

「よくない?」

「別にそうでもなくない?」

 そうでもなくは、なくなくない。

「なんかちょっと恥ずかしい」

「俺は悪くないと思うけどね」

 展示会の候補作品として、校内選抜にかけてもいいくらいだ。

そう思っているのに、彼女は本当に呆れたような顔で見上げてくる。

胸が痛む。

どうせならもっと、違う反応を見せて欲しい。
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