龍神さまのいるところ

第4話

「他に……、なかったらね」

 演劇部員たちの声が聞こえた。

俺たちは同時に顔を上げる。

彼らは舞香に呼びかけると、手を振った。

あぁ、もうここでお終いだ。

彼女は駆け出してゆく。

そのまま行ってしまう後ろ姿に、目を反らした。

撮影に行かないと。

彼らの話す声が、ここまで響いてくる。

俺はすぐ目の前にあった植え込みに向かってしゃがみ込み、そこにレンズを向ける。

固くて丸いつぶつぶの葉を、画面に収めた。

「ねぇ、圭吾も一緒に体育館、行かない? 写真部のみんなも来てるって」

「あぁ、保存データがいっぱいになっちゃった」

 ランプが点滅している。

ここにはもう、何も入る余地はない。

「部室戻って、保存してくる」

「そっか」

「うん。……。じゃあ、後で」

「分かった」

 その場を離れる。

絶対に後ろは振り向かない。

だってそんなことしたって、いいことなんてなにもないの、知っているから。

取り囲む校舎と放課後の景色に、力強く一歩を踏み出す。

誰にも負けないくらい強く、ゆっくりと。

俺はこの場から、立ち去るんだ。

 部室に戻って、ようやく息を吐き出す。

誰にも気づかれないため息をついて、パソコンの前に座った。

そのまま画像の整理をしていたら、いつの間にか来ていた山本は画面をのぞき込んだ。

「お前、相変わらず風景とか動植物ばっかなんだな。ほら、この写真なんか悪くないと思うけど」

 指を指したのは、遠くから演劇部員を写した写真だ。

舞香の姿もある。

「風景もいいけど、人物の方が強いよ。いや、マジで。人が関心のあるのは、やっぱり人だからな」

「二人でなんの話ししてんの?」

 みゆきまで一緒にのぞき込む。

「あー! 何だかんだで、やっぱ演劇部撮ってるんじゃん。うん、コレ、悪くないと思うよ」

「俺のことはいいって」

 これ以上なにか言われないように、急いでページをめくる。

画面に荒木さんが現れた。

教室の窓辺にたたずみ、深く落ち着いた視線で、その視線がレンズを捕らえている。

「この荒木さん、なんか雰囲気あっていいね」

「そうかな」

 白銀の龍に、本当の彼になる直前の姿だ。
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