龍神さまのいるところ

第2話

「お前さ、最近……」

「何?」

 言いかけて、止める。

こんなコト、話したとして、信じてもらえるか? 

俺が舞香を信じたように……。

「……。いや、何でもない」

 やっぱり言えない。

言えないよ。

山本の為にも、舞香の為にも。

ハクと荒木さんの為にも……。

 そう思っているのに、山本はやっぱり俺に対して遠慮がない。

昼休み、昼食を食べ終わった山本は、俺の前にドカリと腰を下ろす。

「別に荒木さんが本当の理由じゃないだろ?」

「……。まぁね」

「そんな簡単に人のせいにしちゃダメだよ。あの人の為にも。自分の為にも」

「うん」

 すっかり外の風は、夏の気配を忘れてしまっている。

教室の窓から吹きこんだそれは、俺の前髪を揺らした。

山本は紙パックのバナナジュースをズズッと吸いこむ。

「ケンカの原因はあえて聞かないけど、舞香ちゃんと圭吾自身の気持ちが、上手くかみあえばいいね」

 そんなことは分かってる。

それをどうしていいのか分からないから困っているんだ。

窓の外を見る。

俺はどうすればいい? 

ガラリと教室の扉が開いて、舞香が顔を出した。

「圭吾!」

 そのまま駆け寄り、俺の背中に抱きついてくる。

これはハクだ。

「ね、写真今日も撮る? まだ撮れてないでしょ?」

「もういい」

「どうして?」

 後ろから回された腕を、ゆっくりと払う。

「何枚かストックがあるから、その中から選ぶ」

 彼女はキョトンとした顔をした。

「もういいのか?」

「もういい」

 じっと見下ろすその仕草は、少し粗暴で幼くて、あの小さな女の子そのままだ。

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

 どうすればって……。

ん? 待てよ……。

「あ、やっぱ撮影しよ」

 俺はとっさに、彼女の腕をつかんだ。

「や、やっぱり……。俺には舞香が必要だった……」

 そう言うと、彼女はうれしそうにニッとなる。

「だろ? じゃ、後でな」

 俺との撮影が不要になったということは、彼女は演劇部に戻るということで、そこには荒木さんがいて、ハクと接触させるのは……。

彼女はご機嫌で手を振ると、すぐに教室を出て行く。

「本当に荒木さんがらみなんだな」

 山本は俺を見た。

「あきらめろ」

「分かってるよ!」

 くそ。

本当に面倒くさい。

なにがどうしてこうなった? 

舞香に乗り移ったハクは、すっかり人間としての生活を満喫している。

高らかな声で笑い、廊下に駆け出しては会いに来る。

一目を気にせず大声で俺の名を呼び、遠くからでも手を振った。

自販機のジュースを要求し、何でもよく食べる。

「お前、小さい女の子の時はあんまり動かなかったのに、なんでそうなった?」

 放課後になった。

池近くのベンチに、ようやく座らせる。

ハクは舞香の姿のまま、お気に入りのマンゴージュースを、勢いよく吸い込んでいた。
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