雪の国の恋、とけない魔法
スキーについてきて!

✴︎スキーについてきて! ✴︎



「ついてきてっ! お願いっ! 」


4ヶ月ほど前の10月。

森川花梨(もりかわ かりん)は、同僚の佐野美紀に必死でたのまれていた。


「私、スキーしたことないってば! 」


美紀の見せてきた画面は、スキーサークルのグループ連絡。
北海道3泊。予定は2月中頃。
美紀は片思いしている相手が参加することがさっき分かり、どうしても参加するんだと花梨を誘ってきた。

花梨達の会社の中にはスキー同好会があり、毎年同じような予定を立ててスキーに行っているらしい。

入社1年目の冬。

スキー同好会の話は他の人からも何回か聞いていた。皆、ガチで滑れるんだよって。


「えー、でも、私は本当に初心者なんだよ」

「私もほぼ? 初心者? かなっ」


と美紀があやふやに答える。
うそだ、と花梨は思った。


「で。実際は? 」


と問い詰めたら、


「えっと、ぜんぜん得意じゃないけど、数回は行ったことあるかナー、高校でもスキー合宿があったから⋯⋯ 」


花梨の高校ではスキー合宿はなかった。
だからほんとにほんとに初めてだ。
そんな花梨が、毎年行ってるような人達とスキーに参加して、どうしろと言うんだ。
それに⋯⋯ 。


「一緒ってスキーって言ったって、美紀のメインは藤枝さんでしょ? 」

「うん、だから、彼を追いかけるのが目的! 大事な瞬間には花梨を忘れる! でも、お願い!!!恩にきるから!!! 」


別に恩を感じなくてもいいし、お返しが欲しいわけじゃない。それだけ必死に好きで、そうして美紀の片思いが上手く行ったらうれしいだけなんだけど⋯⋯ 。

自信がないよ。そんな旅行に参加しても大丈夫なのか不安なんだ。

画面をタッチして、スキーグループ連絡のメンバー、一覧画面を辿る。

上月蓮斗(こうづき れんと)さん、参加、か。

彼は上手なんだろうな。
うん、見るからに、超上手そうだ、私と違って⋯⋯ 。

画面から目を上げたら、美紀の必死の顔。頑張ろうとしている顔。


「しょうがないなぁ⋯⋯ 」

「ありがとーーーー花梨〜〜〜!!!」


こうして、初スキーに行く事になってしまった。



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