雪の国の恋、とけない魔法
もう大丈夫だとホッとした瞬間に、気が抜けたのかすっ転んだ。
「あっ、」
雪の上だからか、たいした痛みはなかった。
でも、どうしよう、ってすごく慌てた。
帽子がぬげて、足が板の重みでなかなか立てない、そのままって無理だって、板を一度はずした。
香月さんが板を拾ってまっすぐにしてくれて、ピックを雪に刺して、焦るけど落ち着いて板ををつけた。
「はぁ、ほんとにごめんなさい、本当にありがとうございます、ホッとしたら、転んじゃった⋯⋯ 」
焦ってしゃべって、今度は情けなくて泣きそう、板を押さえてくれていた香月さんが近くに立っていた。
「誰でも最初は転ぶよ。気にしなくていい。ここまで降りてきて頑張ったからもう大丈夫だろ? 」
「うん」
じわっと上月さんて、思ってた通り素敵な人だなと思った。
落ち着いたやさしい声。
来てくれた。
わざわざ。
一々変に可哀想がらない。
出来るって前向きに力強く言ってくれる。
責めないし、怒らないし、笑わないし、見捨てないで、こんなに時間をかけて、こんなに上手に指導してくれて。
頼り甲斐があって素敵な人だ、
恥ずかしさや申し訳なさをぐっと押さえる。前向きなこの人に恥ずかしくいたくない。
「よし行こうか! 」
って頼もしい支えに従って、再び集中しながら彼の後ろをついていく。
顔に雪が当たり、被り直した帽子をまぶかに、ウエアのフードともう曇ってつけれないゴーグルをまぶかにして、雪を防ぎながら、少し止んで明るさを感じる空と、顔に当たる澄んだ空気。
滑り降りる横の斜面にはショートケーキのホイップクリームみたいなかわいい雪、自分の滑る板の音と風の音だけになって、ひたすら彼の背中を追う、滑れてる。
昨日までしたことなかったのに。
滑れてる私。
入り口が見えてきてスーーーっと下で香月さんがとまり、おくれて私もハの字でグラグラと止まった。