雪の国の恋、とけない魔法
「右に体重のせて、こう」
「重心を戻して」
「左足に体重をのせて」
「そうそう、あわてないで、オレの後辿っておいで」
上月さんは、後ろ向きになって滑りながら指導してくれる。
「教えるの上手ですね」
「オレ、スキーも得意なんだ」
「も? 」
「他にもね、いろいろ得意」
と含んだようにニヤリと笑われて、何も変なことを話してるわけでもないのに、なんか空気が変わる。
「花梨が滑れるように。ちゃんと教えないとね」
と言いながら、スーッと上月さんは斜面でとまって、花梨はその上月さんの板の間に滑り込んでしまって、彼の腕の中に抱き止められた。
「オレに教えてもらうんだろ? 遭難しないようにだろ? 」
見上げた上月さんの顔はすごく機嫌が良さそうだ。
真っ白な雪。
木の枝にこんもりと積もった白い雪が、時々、ぽたんと落ちる。
「いろいろ教えてやるよ」
と上月さんが顔を寄せて呟いた。
温度は低いはずなのに、冴え渡ってスッキリと透明で、不思議と乾いているよう、寒くない。
今日は昨日と違って、遠くまで広く広く冬の山並みが見える。
近くに住む人も、このお天気につられるように自家用車でやってきて、慣れたようにスキーやスノボで、シャーーーっと横を滑り降りて行った。
上手な人ばかり。
とまって抱き合って立ってる花梨たちを、難なく避けて、スピードも緩めない。
上月さんが笑いながら滑り始めて、花梨もゆっくりついていく。
多分、どころか、絶対、こんなにヘタな素人は花梨だけみたいだ。
上月さんも滑りたくならないかな、と思うんだけど、楽しそうに笑う彼に、いいかな、もっともっと一緒にいていいのかな。
この人のカノジョって、付き合っていますって、いいのかな⋯⋯ 。
リフトに2人で乗って、眼下のゲレンデが眩しい。色とりどりのウエア、すごく上手な人、あ、あの人結構ヘタかも、ハの形の足のままグラグラ何とか降りてる。
スノボがギューーンと風を切って右へ左へ。
上月さんも滑りたいんじゃないかな⋯⋯ 。
風を切って、あんな風に滑れる人だから⋯⋯ 。