孤独と孤高にサヨナラを
「俺はお金を稼がなきゃいけなかった。　今もそうだ」


真っ直ぐ、だけど迷子の子どものような目。


「俺だってもっとみんなと反省会したかった。　でも、それは相手に戦術を伝えることになる。　今勝ててるのは俺の戦術がバレていないく突破するのに時間がかかるから。　だから…！」


キっと睨むように私を見る。


「好き好んで孤高なんかになった覚えはない」


私は彼の言葉に怯えたり同情することはなかった。
真っ直ぐ私も見つめ返し、ニヤっと笑う。
その表情に彼が今度は驚いた顔をする。


「なら感謝することね」
「は？」
「私が貴方をそっから引き摺り下ろしてあげるから」
「っ！」
「そしたら一緒に反省会をするわよ」
「反省会…？」
「だって今更じゃない？　貴方の将棋なんてこの日のためにどれだけ見てきたと思ってるのよ。　戦術なんてとっくに把握してるわ。　それともタイトルを獲得した賞金も、テレビ解説のお金もあるのに貴方の母親はお金が足りないっていうのかしら？　それって相当の浪費家よ？　貴方の母親はそんな人なの？　そんな人には見えなかったけど？」


あの日。
泣きわめく私に誰もが注目していた。
そんな中一人自分の息子を褒めて「気にしなくてもいいのよ」と優しく伝えていた人を私は知っている。


「それでもお金のことを気にするなら、私がこのタイトルをとってプレゼントするわよ」
< 14 / 17 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop