孤独と孤高にサヨナラを
長考は将棋でも囲碁でもよくあることだ。
よくあるからこそ、対局時間が長くなる。
席を離れていけない場合もあるが、基本的には許されている。
今日は許されている日だ。

淡々の脳内で将棋を指していく。
でも全てをかわされる。
なんなら逆に攻められている。
脳内で一人対局してこれだ。
本物はもっと強い。 私なんかじゃ考え付かないようなことをする。
それを減らすためにももっと考えなくちゃ。
そう思っていた私の横を二組の男が通る。
自販機に用があるのか、自販機前まで話ながらゆっくりと歩いてくる。


「なぁ、今日の南の対局相手聞いたか?」
「あぁ。 可愛そうにあの女性棋士だろ?」


私の話?


「よりにもよって南と対局するとはねぇ。 初戦からあの孤高の王子様にあたるとは運がないよ」
「俺だったらへこむし、やだ」
「だろ? どれだけ攻撃してもいなされ、逆にいつの間にか攻撃されてる。 あの感じ本当に味わいたくねぇ」
「あいつのさしかた嫌いなんだよなぁ。 こうワクワクしねぇっていうの?」
「分かる。 教科書みたいなさしかたなんだよな。 ここ間違ってますよって言われるみたいで、こう、なぁ」
「本当それ。 他の棋士みたいにもっとワクワクするさしかたをしてくれたらなぁ」


あぁ、アイツの話か。
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