八千代くんのものになるまで、15秒
できるか、できないか。
そう聞かれたら、多分私は、でき……る、と思う。たぶん。
嫌じゃない。
八千代くんに、触れるのは嫌じゃない、から。
ただ……
その、やり方が分からないというか。
「……や、八千代くんがのぞむなら、するよ。」
「え、」
「する、から、つけ方を教えてよ」
幸運だったのは、電車に人が少なかったこと。
こんな会話、誰も聞いていないみたいで、本当に良かった。
もし聞かれてたら、恥ずかしくて顔も上げられない。
「はは、キスマのつけ方が知りたいの?」
「っ、う」
「調べれば分かると思うけど……まぁ、15秒あれば余裕」
キスマークは独占欲の表れだって、そういう言葉を前にどこかで見た。
自分のものだっていう、シルシみたいなものって。
……それなら、15秒で、八千代くんは私のものになってくれる?
……なんて、変なの。