恋する天然酵母
13 ハッピーエンド
――弘樹は先輩の出産祝いを上司の大友に預けることにした。

「すみません。沢田先輩にお願いします」

「うん。沢田君のご主人とよく会うから渡しておくよ」

 上司の大友は物静かだが面倒見がよく皆から慕われていた。弘樹も大友に育ててもらったようなものだと思っている。父親とまではいかないが、歳離れた兄のように個人的なことも含め相談することがあった。弘樹の銀縁の眼鏡は大友を真似たものだった。

「久しぶりだな。一緒に飲むの」

「そうですね。大友さんは相変わらず強いですね」

「いや。弱くなったよ。で? どうした」

「あの。俺、去年から付き合ってる娘がいるんですけど」

「うん。結婚考えてるの?」

「えっ。ああ、まあ」

 なんでもばれてしまうなと弘樹は照れて頭をかいた。

「最近、はりきってるから、そうかなって」

「ただなんていうかもっとじっくり考えた方がいい気もするし。考えないで付き合っちゃったもんだから」

「何か問題でもある?」

「うーん。収入は少ないからそこは気になるかな。あ、でもみんなちゃんと結婚して生活してますよね」

「うん。愛があるからだよ」

「大友さんてロマンチストですね。よく愛は消えるけど金は消えないって言うじゃないですか」

 大友は爽やかに笑った。

「愛があったら生活苦で破たんするまでほっとかないで働くと思うよ」

「それもそうですね」

 不安が軽減し始めた弘樹は、少し回ってきたアルコールで思い切って大友に聞いた。

「身体の相性ってどう思います?」

 大友は微笑したまま「合うほうがいいね」と答えた。

「なんか良くて心配なんですよね」

「いいことじゃない」

「ですか?」

「うん。うちもそうだよ。勿論中身も愛してるけど。セックスがいいと一緒に幸せを感じられるよ」

 弘樹も同意した。

 フミはやっと安堵の表情を浮かべた。様子を伺っていた美里が新しく入れた熱い紅茶を持ってやってきた。

「どう? 落ち着いたの? フミちゃんがまたナナみたいな顔してるじゃない」

「あ、もう大丈夫です。スミマセン。心配してもらって」

「誤解は解いたから」

「ならいいけど。あんた分かりにくいんだから何でもフミちゃんに話しなさいよ」

「わかってるよ」

 微笑ましく二人の姉弟を見つめていると、店のベルがカラカランとウエディングベルのように店内に響く。

 三人で振り返ると、陶芸家の藤原浩一郎が薔薇の花束を持って立っていた。
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