あ

こうみると、結構イケメンなんだな。
「あの……何？」
「えっ…あ、何でもない。ごめん。」
うっかりきれいな顔に見とれてしまった。
彼はうっすら頬が赤くなっているように見える。
誤解されてないといいけど。
「あ、そうだ。私用事あるんだった。ということで私は帰るね。」
私は勢いよく立ち上がり、彼にそう言い残して日陰を出た。
「あ、優希さん。」
「なに？」
「また話そうね。」
彼は可愛らしくにっこりと微笑んだ。
そんなことか。
私は彼の言葉を無視して黙って屋上のドアを開けた。

教室に鞄を取りに行き、そのまま校門を出る。
この後の授業は自習のみだったからでなくても問題ないだろう。
私は軽い足取りで自宅に戻った。

一週間後の朝。
この日は朝から寝坊してしまった。
電車が出発するまであと二十分程度だ。
駅までは歩いて十分なので少なくともあと十五分で準備しないといけない。
パンを焼いている間に急いでセーラー服に着替え、靴下をはく。
慣れた手つきでメイクポーチを開き、中から最小限のメイク用品を取り出した。
私はもとの肌が綺麗な方だから、コンシーラーとアイシャドウとアイラインとリップのみ。
アイシャドウをいつも通りに塗っている時間はなさそうなので、目に沿って釣り目気味にアイラインを引く。
クマをコンシーラーで雑に隠し、ようやくいつもの自分が鏡に映し出される。
パンを無理やり口に詰め込みながら髪の毛にくしを通す。
どうやら丁寧にアイロンをする時間はなさそうだ。
髪の毛はあきらめた私は急いで歯を磨いてリップを塗った。
今から走るのでイヤホンは今日は鞄の中にしまう。
スニーカーを履いて、玄関を飛び出した。

「はあ………はあ………ごほっ…」
ギリギリチャイムには間に合ったものの、走りすぎて息ができないレベルまできていた。
机の上にぐったりもたれかかる。