よあけまえのキミへ

「……どうかしたのか? 何かあったのなら話してくれ」

 異変に気付いたのか、中岡さんが私の顔をのぞき込んだ。

 この人たちを厄介ごとに巻き込むべきじゃないのは分かってる。
 だけど、いずみ屋を出てからはじめて私の言葉に耳を傾けてくれる人に出会えた。

 この三人は私を拒絶しない。
 ただそれだけのことが、まるで奇跡のように有り難く感じられた。

 三人は心配そうに眉をよせて、私が話し出すのを待ってくれている。

「どした? おめぇにゃ借りがあるしな、言ってくれりゃなんでも力になるぜ」

 田中さんが懐から例の写真を取り出して、私の目の前でぴらぴらと振ってみせる。

「本当ですか? 話をきいてくれますか……?」

 彼らは、はじめて言葉を交わしたその日よりもいくらか優しい表情をこちらに向けて、見守るように目の前に立っている。

 その眼差しと『力になる』という一言が、心細く不安でいっぱいだった私の心にどれだけ力強く響いたことか。

 ピンと張りつめていた糸は、もう限界とばかりに悲鳴をあげながらプツリと切れた。
 私はぼろぼろと涙をこぼしてその場に膝をつき、頭を下げる。


「助けてください……! お願いしますっ!! いずみ屋が大変なんです!!」

 もう、この人たちにすがるしかない。
 私の話に真剣に耳を傾けてくれるこの人たちに――!

 地べたに這いつくばったまま、うまく言葉も出せずに泣きじゃくる。

 頭の中がまっしろだ。
 話さなきゃいけないことはたくさんあるはずなのに、何もでてこない。
 ここにたどり着くまでに気持ちも体力もすり減らしきった。使い果たした。


 しばらく嗚咽を漏らしながらみっともなくうずくまっていると、ふいに私の背をポンと優しく誰かが叩く。

「話を聞こう、まずは場所を変えていいか?」

 中岡さんだ。
 片膝を折って私に目線をあわせてくれている。



 流れおちる涙をぬぐいながらこくりとうなずくと、大橋さんがそっと肩を支えて私を立たせてくれた。

「あの、ゆっくり話す時間はないので歩きながらでいいですか……?」

「もちろんです、まずは涙をふいてくださいね」

 まだぐすぐすと鼻をすする私に手ぬぐいを渡しながら、大橋さんはなだめるような口調で微笑みかけてくれる。

 優しい人たちだ。


「んで、いずみ屋がどうしたって?」

 田中さんだけは、さっきから声をかけづらそうに一歩ひいたところに立っている。
 そして困り顔で頭を掻きながら、「泣き止めよ、助けてやっから」なんてぼやく。
 彼なりに心配してくれているのかな。

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