君と恋をするための三か条


「シェフ、何か急いでます?」

慌ただしく厨房を歩き回る俺に、器用にフライパンを振り上げながら話しかけてきたのは、副料理長、スーシェフと呼ばれる役職につく後藤さんだ。

五十代半ばのこの人は、フレンチレストランでのシェフ経験があるにもかかわらずふた周りも年下の俺を完璧にサポートしてくれる。
彼がいるから、俺は思うままに自分の信念を貫き店を大きくできた。

「バレましたか」

「もしかして、これ?」

後藤さんはそう言いながらにやりと笑って、小指を立てて顔の横で振ってみせる。

「落ち着いたら早めに帰らせてもらいます。ディナーの時間には戻るんで」

「おーおー、若いっていいねぇ!」

否定も肯定もしないでいると、目の皺を深くしてがははと笑う。
俺はそんな後藤さんを苦笑いで見つめ、それから時計を見る。

ランチタイムのピークは二時まで。約束は二時半。
いける、間に合う。
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