流れのままに恋したい ~ 過去に傷ついたふたりの恋物語 ~
部長とふたりのミーティングは、回を重ねるごとにぎこちなくなっていった。

かろうじて仕事の話はできても、それ以外の話になると、とたんに私が口を閉ざしてしまうからだ。


無理もない・・・よね。

今日のミーティングも、途中から沈黙が続く。


部長は、椅子の背もたれに深く背中を預けて、ゆっくりと腕組みをして私を呼んだ。


「澤田さん」

「・・・はい」

「慎ましやかなのも、いいんだけどさ」

「・・・」

「たまには・・・さ」

「はい」

「思ってること、口にしてみたら?」

「え?」

「何でもいいから」

「・・・」

「言うまで、待ってる」

「そんな・・・」

「待ってる」


部長の瞳が私を捉える。
そんなふうに見られたら、余計言えなくなる。


「部長、次もミーティングありますよね? もう時間ですし、みなさんお待ちですよ」


はぐらかす訳ではないけれど、この沈黙が続くのは、耐えられそうにない。
もちろん、私のせいで誰かを待たせるのも心苦しい。


「そうやって・・・」


ふぅ、と部長はため息をついた。


ブブ・・ブブ・・
部長の手元にあるスマホが揺れる。

テーブルから持ち上げてスマホの画面を見た部長は、面白くなさそうにつぶやいた。


「なんだよ、副社長か」

「あの・・・行ってください」

「ん?」

「副社長がお呼びなんですよね?」


私はホッとした。

あの瞳に捉えられたままずっと待たれたら、本当に何も言えなくなる。


「次、いつだっけ?」

「何がですか?」

「次にふたりで話す機会」

「次は・・・部長の福岡出張の後になるかと」

「出張後か・・・」

「はい」

「どうして、何も言わない」

「え?」

「俺に言いたいこと、あるんだろう?」

「・・・」

「まったく・・・」


ガタン、と椅子から立ち上がり、部長はミーティングルームを後にした。

その後ろ姿を見送りながら、私は深く息を吐く。


「俺に言いたいこと・・・か」


ひとりになった部屋で、つぶやいてみる。
そんなの、ひとつしかない。


なぜ好きな人がいるのに、思わせぶりな行動を取るのか・・・と。

これ以上、好きにさせないでほしい・・・。


心の中でつぶやいて、ミーティングルームから出ようとしたところに、大股で歩きながら部長が戻ってきた。


「出ていくな」

「え?」

「副社長との用は済んだ。後ろのミーティングは全部キャンセルした」

「ええっ?」

「だから、出ていくな」


どういう・・・こと?


「福岡出張後なんて、無理だ」

「はい?」

「聞くまでは、福岡に行かない」

「えっ?」


何を言っているの?
私と福岡出張は何の関係も無いのに・・・。


「あの・・・仰っている意味が・・・」

「澤田さんが思ってること言うまで、このミーティングは終わらないから」


本気・・・なの?


「でも・・・ずっとここにふたりでいたら変ですよ」

「そう思うなら、早く終わらせればいいだけだろう?」

「そんな・・・」


私は、言葉に詰まった。
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