シュクリ・エルムの涙◆
「リトスは二度目の町狩りで、悲しいことはもう二度と起きてほしくないって、本当の本当に心から願ったの。だから『ラヴェンダー・ジュエル』になってヴェルを守りながら、全ての悪意を消し去ろうとした。リトスは優しいから、これ以上シュクリに負担を掛けたくなかったのだと思う。自分独りでどうにかしようとして……でも二千六百年も抱え込んだら、リトスもとうとう全部は難しくなっちゃった……だから、ね……リルヴィのパパがずっと辛い想いをしてきたのは、リトスが抱えきれなくなったからなの。アタシが半人前だからなの……シュクリもリトスもこんなに頑張ってきたのに、アタシだけがずっと足手まといで……アタシがもっと大人だったら、みんなを悲しませずに済んだのに……!!」
「エルム……」

 目の前でしくしくと泣き始めたエルムは、まるで鏡に映った自分のようだった。あたしもずっと非力で何も出来なくて……でもそんなあたしをみんなは見捨てずに、ずっと見守ってくれていた。きっとあたしが前を向き続けたから。たとえ今は出来なくても、いつか実になる日のために「今出来ること」をやめなかったから。

 いよいよ泣き出したエルムの正面に立って、あたしは両手を彼女の両肩に載せた。ハッと息を止めてあたしを見詰めるエルムに、ニッコリ大きく微笑んだ。

「エルム、リトスはもう大丈夫だよ。悲しみを知ったパパだからこそ、リトスを止めることが出来たのだと思う。辛いことは自分自身で乗り越えなくちゃいけないって、乗り越えた先に本当の幸せが待っているんだって、パパが身をもって証明してみせたから! だからリトスはヴェルを手放したんだよ。そしてそれから十七年経った今も、ヴェルのみんなは楽しく暮らしてる。辛いことがあっても、自分達で乗り越えて元気に笑ってる。エルムも言ったよね、シュクリをこれ以上哀しませたくないって。そうやって家族を想いやっているエルムだもの、足手まといなんてことないよ! エルムだってあたしだって、きっと今出来ることはやれてる筈! だから、諦めないでもっと探そ? あたし達の……今出来ること!!」


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