シュクリ・エルムの涙◆
 それからしばらく談笑したのち、三人で階段を上りながら上階の騒がしさに気が付いた。一体何が起こったのだろう? あたし達は慌ててメインルームに駆け込んだ。

「いったたた……」
「ハニィ、しっかり!」

 お腹を押さえるタラお姉様が、シアンお兄様とビビ先生に支えられて、ゆっくりゆっくりサブルームへと向かっていた。えぇと……これって、もしかしてベビちゃんが!?

「ツパイ~どうしよ! ツパイならお産の知識もあるわよね!?」
「なっ、何を言っているのです、ユスリハ……貴女の方こそ経験者ではないですか!」
「そんなこと言ったって、もう十四年も前よ!? あぁとにかく……パパ! お湯沸かして!!」
「う、うんっ!」

 お先にコクピットから戻っていたツパおばちゃんと、ママとパパがあたふたしていた。あぁ……ベビちゃん、もうすぐ生まれるんだ! タラお姉様、頑張って!!

「えぇと~他に何が必要だったかしら!? あっ、そうそう、タオル! ツパイ、ありったけのタオル用意して!!」
「は、はいっ!」
「あっ、ルヴィ! ここは女手が必要よ! あなたも手伝いなさいっ!!」
「え? あ、うん!!」

 少々パニック気味のママに沢山言付けを頼まれて、ピータンとアイガーも加えたあたし達は、メインルームから必要な道具を探し出した。

 いつもと変わらない、でも笑顔溢れる楽しい日々が、またあたし達の許へ戻ろうとしていた。

 まもなくタラお姉様にも新しい未来が始まる──シアンお兄様とベビちゃんと──だから『彼』の想いは、しばらくあたしだけの胸の内に(とど)めよう。

 リトスとあたしだけの、温かな胸の内に──。


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