シュクリ・エルムの涙◆
「それじゃ、準備が出来たらうちへ来てくれるかい? リルは此処を片付けて、三人で後から来なさい。ちゃんと施錠は忘れずにね」
「はーい」
「返事は「はい」で、伸ばさなくて結構」
「??」

 あたしの「はーい」にケチつけたことなんてないのに。珍しくパパの口調が厳しさを含んでいたので、あたしは黙って首を(かし)げてしまった。けれどそれを不思議がったメンバーは、他には誰もいなかったみたいだ。その沈黙を機にパパとママが荷物を運び出して我が家へ向かう。あたしより先に食器をキッチンへ戻し始めた二人に、あたしも引っ張られるように席を立った。

「ねぇ~アッシュは何日前にヴェルに来たの? その間に課題を終わらせちゃったって本当?」

 率先して流しで食器を洗うアッシュの横に並び、手渡されたカップを拭き上げながら尋ねる。ルクはテーブルの上を拭いてくれていた。

「んー実際はちょっと違うかな。イギリスからヴェルまでの航行中に済ませたよ」
「えっ!?」

 相変わらず才色兼備という言葉が似合い過ぎる……! あれ? この言葉って女性に使うんだっけ?

「だから、ね?」
「え?」

 屈めた腰を伸ばしたアッシュがおもむろにあたしに相対し、高い位置から見下ろしてニッコリと笑った。

「とことんお付き合い申し上げるから。覚悟しておいてねーリル! あ、ルクもだよ!!」

 教育ママ&パパはうちの両親だけじゃなかった!

 あたしは危うくカップを落としそうに、ルクは向けた背をビクンと波立たせ、手の中の布巾は見事に宙を舞っていた──!!



*お読みくださり誠に有難うございます*

 今作からお読みいただいている方には、ずっと「ツパおばちゃん」でありましたルクの伯母ですが。実際の名前は「ツパイ」と申します。

 前作よりリルヴィの父親ラヴェル(本名ラウル)が、ツパイをツパと呼んできたことから、リルヴィもツパイをツパおばちゃんと呼んでいます。分かりづらくて申し訳ございませんが、どうぞご理解をお願い致します。


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