シュクリ・エルムの涙◆
 タラお姉様は伸ばしていた背筋を背もたれに預け、「一旦作戦会議は中断ネ」と言った様子で、あたし達に口を開いてくれた。

「アシュリーがリルヴィちゃんから聞いた話に依れば、サリファはラウルに、ユスリハちゃんと引き換えに「『ジュエル』と若い肉体」をよこせと言ったのでショ? だけどさすがにそんな代わりなんて用意出来る訳もないから、あの子はジュエルだけを持ってシュクリを登っていった。となれば、アナタは恰好の「若い肉体」になれるワケヨ、リルヴィちゃん」
「……え?」

 もう一度上げてしまった驚きの声に、隣のルクがワタワタし始めた。そ、それってあたしが(おとり)になるってこと!?

「イイ? サリファは飛行船で来たら容赦はしないとも言ったのでショ? 正直すばやい小型のグライダーでも、無事二人を山に送れるかは五分五分と思っているの。其処にリルヴィちゃんっていう「幸運の女神」が同乗していたら、リルヴィちゃんの肉体が欲しいサリファは攻撃出来ない筈ヨ。そして山頂に到着するまでは確実に守られる……どう? 一石二鳥でショ?」

 確かに……あんな紅い光のままのサリファだ。動くための身体が必要に違いない。そしてその「生贄(いけにえ)」が手に入るまでは……明らかにあたしと、あたしの背後にいてくれれば二人は無事だ。

「でも山頂に着いたら、一番に狙われるのはリルになる……姉さんはそれを分かっているのにどうして──」
「だから予防線になるって言ってるんじゃないの~アシュリー」

 辛そうに搾り出したアッシュの台詞が終わらぬ内に、重ねられたのはタラお姉様のあっけらかんとした答えだった。

「自分達が倒れれば、リルヴィちゃんはサリファの物になるわ。そう思ったら()られる訳にもいかないし、死んでる場合でもなくなるでショ? モノは考えようヨ。リルヴィちゃんをお守りだと思えばイイの」
「姉さん、だからって──!」


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