若頭の溺愛の檻から、逃げられない
 


真っ黒な鉄の輪が連なる鎖は私の両手首からベッドの支柱の方へと伸びている。

引っ張っても軋みもせずに、ただじゃらじゃらと音が鳴るだけで全然取れない。

それはせいぜい身体を起こせるぐらいの長さしかなく、私の動きを妨げた。

もしかしなくてもこれは…



「……冬華の力?」



彼はドアノブに手を掛けたままこちらを振り向いた。

自慢げにとも当たり前だとも言ってるような曖昧な微笑みを浮かべている。




「そう。」


「こ、こんなのして、何になるの?」



無自覚に声が震えた。…蒼は一体どうしたの?

目の前にいる彼が突然別の誰かに見えるくらい、私は彼が今していることが分からない。



「鎖なんて、私につけて…、何がしたいの…?」



嫌な予感に手汗すら出た手を握りしめると、嘲笑うかのように一緒に鎖がじゃらっと音を立て鳴った。

必死だった。圧倒的な力を持つ彼には到底、私は敵わない。
そんな圧倒的弱者の私が彼から絶対逃げられないこの状況。

何がしたいのか、何をされるのか。

こんなにも自分が獲物みたいな気持ちになったのは初めてだ。捕食者への恐怖に、呼吸がおかしくなりそうで。


彼は視線をあげると、どこか可笑しそうに、そんな私の必死な様子を見ていた。

そして小さく笑うといつもと変わらない、聞きやすい低音の声でこう言った。



「君を檻に入れてずっと愛したい。」


 

そう短く答えたっきり、彼は再びドアノブに手を掛けて、私が行けない扉の向こう側に行ってしまった。
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