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思い切って注文
恋人がいる人ならば、週末の予定を楽しみにしているだろう金曜日の夜。

わたしこと「犬養 明(いぬかい あかり) 二十七歳 独身 カレシなし」は、ダイニングバーのカウンターで飲んだくれていた。

オーナーのルミさんは、わたしの大学時代の先輩。
学生時代からイケメン好きだったが、社会人となってからも、その情熱は治まるどころか燃え上がり、いまでは各種イケメンを取りそろえたダイニングバーを三店舗ほど経営する女社長だ。

目の覚めるような美人で、面倒見がよく、独り身のわたしを何かと心配し、仕事の愚痴や恋愛相談にも付き合ってくれる。


「ルミさん……どうしてわたしって、男運ないんですかねぇ……」

「何があったの? あかりちゃん。年下のカレシとラブラブだったんじゃないの?」

「それが……」


誕生日を二日後に控えた昨夜。
カレシの浮気現場に遭遇した。

付き合ってまだ二か月。
もしかしたら、付き合ってもいなかった、という可能性も無きにしもあらずだが。

元カレとは、仕事を通して知り合った。

半年ほど前。
大手家具メーカー『KOKONOE』の人事部に所属するわたしは、全社で使用している勤怠システムの大幅なバージョンアップを主導する課長の補佐役――とは名ばかりの雑用係に任命された。

元カレは、勤怠システムを開発した会社の営業担当で、連絡役を務めていたわたしは、電話やメールで毎日のように彼とやり取りをすることに……。

営業マンらしい、にこやかで爽やかな彼の物腰に好感を抱きはしたが、三つ年下ということもあり、どうこうなろうなんてまったく思っていなかった。

ところが。
無事に新バージョンのリリースが終わり、彼が姿を見せることもほぼなくなってひと月ほど経ったある日。

偶然、自宅の最寄り駅で彼に遭遇した。

話の流れでそのまま軽く一杯飲みに行き、以来ゴハンを食べに行ったり、飲みに行ったりとデートまがいの逢瀬を重ね……なんとなくそういう関係になった。

頼まれたわけではないが、家事が苦手だという彼の部屋に通い、手料理を作ったり、掃除や洗濯をしたり、半同棲のような状態になって二か月。

三つ年下ではあるが、優しく穏やかな彼となら、この先もずっと上手くやっていけるかも。そう思い始めていたのだが。

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