イケメン、お届けします。【注】返品不可
予定していた友人との飲み会が彼女の体調不良でキャンセルとなり、彼の部屋をアポなしで訪れたところ、玄関に女物のパンプスが転がっていた。


『彼女、いるんでしょ?』

『いないって。あれは、家政婦』

『じゃあ、わたしは?』

『恋人だろ』


などという会話が喘ぎ声やらその他の声に紛れて聞こえ、静かにドアを閉めて立ち去った。

自分が、とびきりの美人でもなく、セクシーでもグラマーでもないことは自覚している。

身長百六十五センチ。やせ型。髪は直毛かつ剛毛で、どう頑張ってもゆるふわな髪型にはなれないため、前下がりのショートボブ。
少しでも軽く見せようとベージュのカラーリングをしているが、効果はあまりない気がする。

顔立ちは、タレ目と大きめの口以外、これといった特徴はない。
それなりにおしゃれや化粧に気は使っているけれど、全体的な印象としては地味の部類に入る。

それでも、まったく恋愛経験がないかといえば、そうでもなく。
押しに弱く流されやすい性格な上に、取り立ててこだわりもないので、わりと付き合うまではとんとん拍子でコトが進む。

が、長くても一年しかもたない。
しかも、最後には決まって相手の浮気により別れるパターンを繰り返してきた。

十代、二十代の前半までは、ツイていない。今度は、浮気なんかしない人と恋をしよう――そう前向きに考えられていたけれど、アラサーとなったいま現在。

白馬の王子様なんていないことは思い知っている。
それどころか「男」とは浮気する生き物だ……なんて思いかけている自分がいる。


「で、浮気男に文句の一つでも言ってやったの? あかりちゃん」

「いいえ。でも、復讐はしましたけど」

「復讐?」

「はい。電話で別れ話を切り出そうかと思っていたんですけれど……今朝、彼から送られて来た『今日はあかりのハンバーグが食べたい!』なんていうお気楽なメッセージを見て、怒りが込み上げまして」

「……元カレ、ツワモノね」


ルミさんは呆れ顔だ。


「ツワモノというか、完全にナメられてたんだと思います。だから、地味でささやかな復讐をしたんです」

「地味? ささやか?」

「本当に、たいしたことじゃないですよ。夕方、いつものように彼の部屋へ行き、リクエスト通りにハンバーグを作り、なごやかーに食事をして。そのあと、自炊しない彼のために作り置きのカレーを用意して、ハバネロソースをひと瓶投入しておきました」

「ゲホッ」


わたしの右隣に座る男性客がいきなり咳き込み始め、「大丈夫~?」なんて甘ったるい女性の声が聞こえた。

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