イケメン、お届けします。【注】返品不可
誕生日の願いごと


純子ママや常連さんたちに見送られて店を出ると、わたしの手を引くオオカミさんは、迷うことなく駅へ向かって歩き出した。

夜風は、火照った頬を冷やすと同時に、浮かれていたわたしの気持ちも冷やし、どんどん足取りも重くなっていく。

このままでは、帰りたくないなんて口走ってしまいそうで、いっそのこと繋がれた手を振り払い、タクシーに飛び乗ってしまおうかと思いかけた時、不意にオオカミさんが方向転換した。


「うっ」


いきなりくるりとこちらを振り返った彼の胸に激突するようにして抱きしめられる。


(な、何ゴトっ!?)


がっちりホールドされた状態は、甘い抱擁……というよりも、「捕獲」だ。


「あかり。明日も仕事は休みか?」

「え? は、はい、そうですけど……」


入退社の忙しさもだいぶ落ち着き、次の人事異動の時期までは、いつも通り土日休みのサイクルだ。


「だったら、今度は俺のプランで理想の誕生日を過ごせるな?」

「え? あの……」


どういう意味かわからないまま、再び手を引かれ、連れ込まれたのは駅前の老舗ホテルだった。

クラシック調で統一されたホテルの古めかしい回転扉を潜り、アイボリーとダークブラウンで統一された上品な雰囲気のロビーを横切って、エレベーターに乗り込む。


「あの、どこへ……?」

「夜景を眺めながら、バースデーケーキを食べられる場所だ」


このホテルの最上階にはバーラウンジがあり、夜景を眺めながらお酒を楽しめるとあって、デートコースの一つになっている。

夜景だけでなく、オリジナルのカクテル、年代もののウィスキー、ヴィンテージワインなど、酒好きのワガママな要望にも耐えうる豊富なメニューも売りの一つだが、さすがに「バースデーケーキ」はないだろう。


「もしかして……わざわざケーキ、予約してくれたんですか?」

「ついでだ」

「ついでって……」


そんなわけないだろうと言おうとしたら、唐突に唇を塞がれた。


「んっ! オ、……」


誰かが乗り込んで来たらと焦るが、抱きすくめられて身動きできない。

しかも、唇を重ねるだけの慎ましいキスなんかではなく、絡んだ舌を弄ばれ、背中を滑り降りた手でヒップを掴まれる。

混乱と戸惑い、それを上回る欲望に、燃え上がりそうなほど身体が熱い。

いつの間にか止まっていたエレベーターを降り、どこへ行こうとしているのかわからないままドアを潜り、なだれ込むようにして部屋の奥へと進み、押し倒されたのは……ベッドの上。


「お、オオカミさん……ここ……?」


< 40 / 67 >

この作品をシェア

pagetop