イケメン、お届けします。【注】返品不可
褒めたはずが、むっとした顔で言い返された。


「ね、狙っ……何の冗談ですかっ」

「あかりちゃん。チャンスは逃しちゃダメよ! こんなイイ男、滅多に出会えるもんじゃないんだから!」


純子ママにそう諭されたものの、首を傾げずにはいられない。

見てくれは、最上級。
たぶん、けっこうお金持ち。
態度も口も悪いけれど、わざとではない。

女癖は……割り切った付き合いをしているとは言っていたが、不誠実なようにも見えないけれど。


「オオカミさんって、イイ男……なんですかね?」

「そうだ」


本人は真面目な顔で、肯定する。


「ほかのどんな男よりも、あかりを幸せにする自信がある」


いくら仕事とは言え、サービスが行き届きすぎている。
ホストよりも、ホストっぽい。

本気にしてはいけないと思うのに、勝手に頬が熱くなり、恥ずかしくてつい素っ気ない態度になってしまう。



「それは、どうも」

「なぜ、嬉しそうじゃない?」

「いや、だって……ルミさんに、頼まれただけなのに……」 

「頼まれてもイヤなら断るし、面倒なら途中で切り上げる。こうして、いまここにいるのは、あかりの誕生日を祝いたいからだ」


これは夢じゃないと信じたい。
けれど、これまでの悲惨な恋愛遍歴を考えれば、自分の直感も理性も信用ならない。


「そろそろ出よう」

「……うん」


店の古びた時計は、もうすぐ午後十一時になろうかとしていた。

大人の女らしく未練も執着も見せずに別れるべきだと思うから、頷いた。
本心では、帰りたくないと思っていたけれど。


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