クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜

3 修哉side 彼の生きる道



彼女に衝撃的な再会を果たした後、
レコーディングスタジオに戻り、何事もなかった様に、黙々と仕事をした。

マネージャーの剣持はやけにしつこく小春の事を聞いてきた。
奴は、ちょっと心配症なとこがある。
いや、かなりかも。
そして要注意人物だ。

芸能人を支える人達は、
いつも、どこかアンテナを張り巡らせ、
新たな人を発掘しようと企み、
面白い事があればたかりたがり、刺激を求めたがる。

小春なんてかっこうな餌食になりかねない。
この世界に入ってその事だけはやけに、敏感になった。
誰にも心を開いてはいけない。

出来るだけプライベートは隠して、守りたい。
事務所に入る時、それだけは絶対だといい。
顔を出して活動する事を拒んだ。

『じゃあ。何で歌なんて歌ってるんだ。
みんな有名になりたくて、自分を見せたくて、歌手になるんじゅないのか?
君なんてルックスいいんだし、逆に歌がちょっとアレでもその見た目だけでも売れるはずだよ。』
と、社長は言っていたが、

俺の目的はむしろそれじゃない。

ただ、彼女が見出してくれたから、俺の存在価値を。
それを糧に、金を稼ぐ手段としただけで、

別に、料理が上手けりゃ料理人になっていたと思う。
俺にとって歌を作る事、歌う事は、その程度の存在だ。

なんなら、出来れば自分で歌わなくても、金が稼げるんだったら曲だけ作って売っても構わない。
ただ、心動くのは彼女の事だけだから。
彼女を思ってでしか曲は書けないし、歌は歌えない。
そんな心の狭い人間だ。

インディーズでバイトと掛け持ちで音楽活動をしてた頃、剣持が勤める会社のスカウトマンが俺を見つけて声をかけてきた。

今じゃ。
SMSやYouTubeから新人を発掘する事が多い時代なのに、こんな古臭い感じで出てくるのは久しぶりだと社長は言った。

俺としては、とりあえず、売れれば何でも良かった。

キーボード1つ持って、いろんな地方を渡り歩きながら、ただひたすら、
彼女に向かって歌を作り、歌っていた。

なんでこんなに彼女に執着してるのかって、
自分でも少しおかしいと思ったりする。

俺は今まで何かに執着するって事が無く、
親にさえ、自分にさえどこか冷静で、
他人事の様に接してきた。

彼女と会えなくなって10年。
彼女以外に関しては、常に冷静だった。

心躍る事もなく、斜め下から世間を見渡し、
だからって、世の中に逆らう事なく生きてきた。
自分の歌を誰かに届けたいなんてこれっぽっち思って無くて、
彼女にだけ届けたいと、届いて欲しい。

いつか会えると信じて、
いつか見つけ出してみせるという思いだけが頼りだった。

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