クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
車に乗って15分。
都内でも有名な住宅街の一角の高層マンションに着いて、驚く。

えっ。先輩ってこんな凄い所に住んでたの⁉︎
私のアパートとは雲泥の差だ。

私、こんなジーンズとスニーカーで大丈夫?

ビクビクしてる私とは裏腹に先輩は堂々と私の手を引いて先を行く。
エントランスはまるでホテルのロビーのようだった。

「おかえりなさいませ。」
男女のコンシェルジュが2人、頭を下げて出迎えてくれる。

「今日から一緒に暮らすので、彼女の事。よろしくお願いします。」
先輩が、コンシェルジュに紹介した。

慌てて、
「櫻井と申します。よろしくお願いします。」
と頭をさげる。

「こちらこそ。何か御用がありましたら、なんなりとお申し付け下さい。」
和か微笑んでくれた。

「結城様にお手紙と宅配物いくつか預かっておりますので、後ほどお届けに上がります。」
男性のコンシェルジュが言う。

「今もらってくよ。」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
コンシェルジュが荷物を取りに行ってる間に、先輩がいろいろ教えてくれる。

「クリーニングとか買い物、ホテル並みにいろいろ頼めるから使うといいよ。」
わ、私が⁉︎
ただの居候の分際で無理だよ。
ブンブンと首を横に振る。

先輩が笑って、
「プールとジムが最上階にあるし、朝ごはんとかちょっとしたラウンジでお酒も飲めるから。」
まるで本当にホテル、なんだか場違い感半端ない。
尻込みして思わず一歩後ずさる。
大丈夫だろうか私。

「俺だって本当は普通の部屋で充分だったのに、事務所の社長が家賃安くするからって、自分が住んでた部屋を貸してくれたんだよ。
当の本人は最上階に引っ越したよ。」
苦笑いしながら言う。

「お待たせ致しました。
こちら小包とお手紙です。ご確認をお願いします。」
コンシェルジュにお礼を言って、エレベーターに乗り込む。

荷物があるから手を離そうとしたのに、
荷物を小脇に抱えて、先輩は私の手を離してくれない。

「荷物大丈夫ですか?重く無いですか?」

「いや。小春の手を放した方が大丈夫じゃ無いから。」
どう言う意味?小首を傾げる。

「小春が逃げないように。離したく無いって事。」

「逃げませんよ。だって他にもう行く所もありませんし。」
下を向いて俯く。

「良かった。ずーっと居てくれていいからな。」
先輩が嬉しそうに微笑む。

「私もいくらか家賃払います。居候ですし。」

「はぁ。
小春から貰うわけないだろ。俺だって小春の部屋に居たけど、払ってないし。」

「でも、食費とかいつの間にか払ってもらっちゃってましたし、
困ります。ちょっとでも受け取って下さい。」
困り顔で必死に言うけど、聞き入れてくれない。

「小春は俺の彼女でしょ?
なんで居候って思うの?これは同棲だろ?」

同棲?そっか私、元店長から逃げたくてとりあえずと思って簡単に決めちゃったけど、良く考えてなかったかも…

急に不安になってきた。

エレベーターが25階に停まって、先輩が先を促し歩き出した。

「もう、逃げようとしてもダメだよ。」
いじめっ子の顔をして先輩がニヤッと笑う。

「小春の両親には折を見て連絡入れないとな。心配するだろ。」

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