クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜

修哉side

最上階のジムで泳ぐ。

無心で泳ぐとそこそこの疲労感で気持ちを落ち着ける。

小春が来てからどうしようもなく衝動を抑えられない。そんな時はがむしゃらに泳ぐしかない。まるで修行僧だと思いながら、1人苦笑いする。

「よう、修哉。
やたら泳いでる奴居ると思ったらお前かよ。」

プールから見上げると知った顔。めんどくさい奴が来たと修哉は思う。

「社長。お疲れ様です。
珍しいですね。泳いでるなんて。」

事務所社長の松崎がそこに居た。
「いや、ジムからやたらがむしゃらに泳いでる奴が見えたから来たんだよ。」

50歳過ぎの松崎は貫禄のある体付きでプールサイドに座る。
「社長も泳いだ方がいいですよ。その体型ちょっとは引き締まるんじゃないですか?」

「はははっ。お前だけだよ、俺にそう言う事言える奴」

思えば出会った頃からこうだった。
特に芸能界に野望の無い修哉にとっては社長とは言え、ただの中年の男にしか見えない。

「女を連れ込んでるんだって?
お前にしては珍しいなぁと思ってな。」

「人聞きが悪い言い方ですね。
同棲ですよ。真面目になんでちょっかい出さない下さい。」
修哉は念を押す。

「真剣交際って奴か?結婚するのか?」

「彼女が望めば。」

「ふーん。まぁ。お前は有名人って言っても顔が割れてないし、特に言う事は無いけど…

まぁ、あれだ。この世界、誰が何処で見てるか分からないからな。気をつけろよ。」

「別に、やましい事をしてる訳では無いので、堂々としてますよ。」
修哉は笑って言う。


「お前の事だ。何かあったらすぐ辞めそうだな。…簡単に辞めるなよ。

今夜は何か?ケンカでもしたのか?
こんな時間に恋人残してこんなとこに居るのは。」

「そんなんじゃ無いですよ。食べ過ぎたんでちょっと運動です。」

「ふ〜ん。
まぁ。今度紹介してくれよ。」
それだけ言って、さっさと去って行った。

この社長かなりのやり手らしいが、俺から見たらただのオヤジだ。
恐るに足りず。

小春はもう寝たかな?
長く1人にさせるのも不安になる。
自分でも過保護な父親かと突っ込みたくなるが、小春の事に関してはどうしようも無く、冷静ではいられない。

アイツに連絡してみるか。
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