さよならの向こうにある世界
プロローグ
「ねぇ芽依ちゃん。臓器移植って、知ってる?」
「ゾウキイショク?病気の名前?」
「ううん。僕たちの病気を治す方法」
「すごい!そんなのがあるの?どうやってやるの?」
「うーん、芽依ちゃんだったら、健康な人の心臓を芽依ちゃんの心臓と取り換えっこして、芽依ちゃんの心臓を元気にするんだよ」
「取り換えっこ?それじゃあ私と取り換えた人は死んじゃうの?」
「ううん、その人はね、先に死んじゃってるの。事故や病気で先に死んじゃってて、だけど生きているときに、自分が死んだら誰かに自分の元気な部分をあげてくださいって言ってたんだよ。だから、その人は死んじゃっても芽依ちゃんの中でずっと生きていくんだって」
「へぇー、碧斗君は何でも知ってるね!」
「昨日、先生が教えてくれたんだ。そういう人たちのことを『ドナー』っていうんだって」
「『ドナー』かぁ。じゃあ私が先に死んじゃったら、碧斗君のドナーになるよ!私心臓は元気じゃないけど、肝臓はとっても元気だから!」
「本当?じゃあ芽依ちゃんも、僕が先に死んだら僕の心臓もらってよ。それで芽依ちゃんの心臓になって、僕も一緒に生きていきたい」
「いいよ!約束!その時は——私のドナーに、なってください」
肝臓の病気を患っていた同い年の木嶋碧斗君と、子どもながらにしたこの会話から十二年後、私たちはお互い移植手術を受けた。ドナーになってくれた人の情報は一切ない中で、私たちはその人の想いを乗せて生きていかなければならない。
ドクドクと、この心臓が動く限り、私は今日も生きていく、生きていける。