あの日の夢をつかまえて

第3話


対局まで集中して将棋と向き合いたいって、みぃくんが言った。

だから数日間、私はみぃくんと会っていない。

自分のひとり暮らしの部屋で。

ぼんやりして過ごしている。



私の勤める会社は、小さな印刷会社で。

定時で帰れることが多いし。

残業もほとんどしたことがない。

楽で。

でも、退屈で。



……あの夜。

みぃくんが涙を見せた、あの夜。

好きな仕事をしているわけでもない、熱心に仕事に向き合っているわけでもない私が。

好きなことを仕事にしていて。

熱心に頑張っているみぃくんに。

かけてあげる言葉なんて、見つかるわけがないと思った。



(ダメな恋人だよね、私……)



そんなことを思いつつ、仕事帰りに買ってきたアイスクリームを冷蔵庫にしまう。

アイスクリームはふたつ、同じものを買ってしまった。

いつものくせ。

私と、みぃくんの分。



いつみぃくんが来てもいいように、ちょっとしたお菓子なんかは2人分買ってしまう。

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