あの日の夢をつかまえて

「どんなこと?」

「小さい頃、人と話せなかったこと」



遠い目をしてみぃくんが話す。



「周りにいる子と、コミュニケーションをとることが苦手だったんだ。だから友達もいなくて、いつもひとりだったっけ」

「……」

「でもそんな時に、父さんが将棋を教えてくれてさ」



みぃくんは目を細めた。



「すぐに夢中になった。面白くて楽しくて、寝ることも惜しいくらい。そしたら将棋教室に通えることになって」

「うん」

「オレ、将棋教室で初めて人とコミュニケーションがとれたんだ。将棋を通して世の中と繋がれた」



みぃくんは嬉しそうに言ったけれど。

その言葉に私は胸を締めつけられるみたいだった。



どんなに寂しかったんだろう。

どんなに苦しかったんだろう。



小さなみぃくんに会いに行って、ぎゅうっと抱きしめてあげたい。



だけど、それは決して叶わないから。



「みぃくんに将棋があって良かった」



心からそう思った。


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