その騎士は優しい嘘をつく
 だからすぐにわかった。

 その家の前に立つ。呼び鈴を鳴らす手が震えていた。ここにアンネッテがいるかどうかはわからない。だけどまだ、彼女は治癒院にはいなかった。
 遠征から戻ると、騎士は必ず治癒院で怪我の治療を受ける。怪我がなくても、本当に怪我をしていないかを確認されるために、必ず全員、治癒院へと足を運ぶ必要がある。
 そこでアンネッテと再会できることを密かに期待していたハイナーではあるが、残念ながら彼女の姿は見当たらなかった。ただ、あの魔導士団の団長が、ものすごい視線でハイナーを睨んでいた。
 そうされるような心当たりのないハイナーは、その団長を無視していた。

「はーい」
 ハイナーが呼び鈴を鳴らすと、家の中からは女性の声が聞こえてきた。ゆっくりと扉が開かれる。
 アンネッテ、ではなかった。彼女とよく似ているが、違う。恐らく彼女の姉。

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