最初で最後の恋をおしえて

 すぐに羽澄の声が聞こえた。

「どうしたの?」

 怒りをぶつけられるでもなく、非難をあびせられるでもなく、紬希を気遣うみたいな声色に涙が出そうになる。

「ごめんなさい」

 かろうじて謝りの言葉を漏らすと、驚く言葉をかけられた。

「明日、婚約者に会うから?」

「どうして」

 言葉を失う紬希に、羽澄が続きを補った。

「どうして知っているのかって? 風の噂で聞いたんだ」

 如月ハウスのお嬢様だと知っていた羽澄。婚約者の話もどこかから、伝え聞いたのかもしれない。

「すみません。最初からお受けしてはいけなかったんです」

 申し訳なく思っていると、羽澄は優しく言う。

「そんな風に言わないで。数日でも俺は楽しかった」

「羽澄さん……」

 如月ハウスのお嬢様だと、知った上での優しさでもいい。今は、それでもうれしかった。

「俺を、選ばない?」

 小さな声。けれど、紬希にははっきりと聞こえた。聞こえたけれど、意味がつかめない。

「ふたりで逃げればいい」

 今度はもっと鮮明に聞こえた。どうしてか、涙がこぼれそうになった。

「ごめんなさい」

 どうにかそれだけ絞り出して、電話を切った。
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