最初で最後の恋をおしえて

 それから幾年かが過ぎ、大学に進学した。進学が決まった際、呼び出され大学進学を祝われた。

 そして、そのときに驚くべき話をされた。
 
「娘と結婚させるために育てて来た」

 これについては、理解していた。いつかこの人の娘と結婚するのだろう。拾ってもらった恩もある。

「結婚するまでは会わせない。それまで操を立てろとまでは言わない」

 目を見開いて彼を見つめると、「遊ぶのは構わない」と言ってのけたのだ。

 そこから堕ちるのは早かった。言い寄ってくる女はたくさんいた。ただ、誰にも心は開かなかった。

 馬鹿らしかった。人の変わり様が。

 恵まれない環境で、自分の身なりまで気遣えなかった頃は、酷いものだった。存在はないものとして扱われ、特に女子からは汚物でも見るような視線を向けられた。

 それが中学の途中から、如月の関係者の指導により、身ぎれいになり、元々良かった成績も確固たるものとなった。

 するとどうだろう。周りの反応が変わった。途端にちやほやするようになったのだ。反吐が出そうだった。

 羽澄は如月に聞いたことがあった。

「もしも、あなたの娘さんに断られたら?」

 如月は少しだけ驚いた顔をして、それからおおらかな声で言った。

「その時は、そうだね。きみは自由の身だ」

 自由の身。それはとてもいい響きだった。
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