最初で最後の恋をおしえて
長く眠った気がする。目が覚めると、初めに視界に入ったのは羽澄だった。
申し訳ないと思い続けたせいだろうか。優しい表情をした羽澄がすぐ側にいた。夢にしては、都合が良過ぎる。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
羽澄はなにも言わない。
涙が勝手にこぼれてくる。
「今はおやすみ。いい夢が見られるから」
いい夢? 本当に?
「羽澄さんが、恋の素晴らしさをわかってくれる夢?」
羽澄はふわっと柔らかく微笑んだ。それは、婚約者だと知る前の羽澄と同じだった。
「それなら、これからもきみが俺に恋をおしえてくれないと」
「羽澄さんがよろしければ、お安い御用です」
羽澄はそっと前髪を上へ持ち上げると、体を屈めた。おでこに柔らかく唇が触れる。
「約束」
消えそうな声のそのあとに、かすれて切れ切れの言葉が続いた。
「俺の方こそ、ごめん」
その言葉の意味が、紬希にはわからなかった。