最初で最後の恋をおしえて
「うん。だから如月さんにおしえてほしいんだよ」
『だから』の意味を理解できないでいる紬希に、羽澄は自嘲気味に続けた。
「見合いを免れない生い立ちで、そろそろタイムリミットが迫っている。恋を知らないまま、結婚するのも人生かって思っていたところに、きみの話が聞こえた」
どこまで本当かわからない。ただ紬希は思ったままを、自然に口にしていた。
「その結婚する方と恋をしてみては?」
終始穏やかに話していた羽澄が、目を見開き、そして笑った。
「おめでたいな。相手も見合いを了承するような人だ。そこに気持ちがあると考えるのは、子どもが夢を見るようなものだよ。それでも、その結婚からは逃れられない」
羽澄は自分の置かれている状況を、淡々と話す。
紬希は、少し考えてから静かに聞いた。
「逃げたいんですか?」
見上げた先で、羽澄は真っ直ぐに紬希を見つめている。さきほどより悲しげに見えたのは、紬希の思い過ごしかもしれない。
そしてポツリとつぶやくように言った。
「そうかもしれないね」
緩やかに上がる口角。変わらない柔らかな表情を見て、無意識に返事をしていた。
「わかりました。考えてみます」