最初で最後の恋をおしえて

 紬希が先に入り、羽澄は後ろ手に鍵を閉めた。どうしてか、鍵の回る金属音が耳について緊張が増す。

「キスが、したい」

 脈絡なく言われ、靴を脱ぐ足がもつれる。

「な、なにを言っていらっしゃるんですか」

 昨日の出来事なんて忘れたみたいな態度だったくせに。

 動揺する紬希とは対照的に、羽澄はひどく落ち着いている。

「好きなんだ。紬希」

 久しぶりに呼ばれる名前に、総毛立った気がした。

 頭を振り、後退る。

「嫌です。だって羽澄さんは」

『気持ちがなくても、付き合うことはできる』

 その言葉は、胸を軋ませる。

「これが恋じゃないのなら、おしえてほしい」

 懇願するように言われ、羽澄を見つめる。そこからは目を逸らせなくなった。

 真っ直ぐに見つめられ、吸い込まれてしまいそうだ。

 近づくにつれ、軽く伏せられていく瞳は、長いまつ毛に縁取られている。高く通った鼻梁が鼻先を掠め、彼は自然に顔を傾けていく。

 あと数センチで唇が触れる。

 その距離で、羽澄は言った。
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