最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「志遠さん? どうしたんですか? 変な顔をして」

普段は鈍感な彼女だが、こういうときだけよく気づく。いや、気づかずにいられない表情を俺がしていたのだろうか。

「……陽芽。落ち着いて聞いてほしい」

陽芽を自分の隣に座らせ、目を逸らしたままゆっくりと切り出した。

「君の恋人である山内大也のことだが。君が日本を発つ数日前。同姓同名の人物が検挙されている」

彼女はきょとんとした顔で俺を覗き込んでくる。

「けん……きょ?」

「罪名は詐欺。複数の女性から結婚資金として数百万円だまし取っていたそうだ」

「え……」

陽芽がかちんと凍り付いた。

「身に覚えが……あるよな?」

陽芽は茫然とした様子で「えっと……」と困惑した声を漏らす。

「本当に、その人が、私の知っている山内さんでしょうか……?」

「年齢や外見的特徴も一致している。なにより、詐欺の手口が君の話と一緒だった」

俺は調査を依頼していた秘書から送られてきた写真を陽芽に見せる。

彼女は言い逃れもできなくなり、血の気の引いた顔でこくりとうなずいた。

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